恋の後味はとびきり甘く
 若気の至りで会社員を辞めたことを後悔してはいない。でも、苦しい時期もあった。それを耐えた甲斐あってか、こだわりのチョコレートだけを扱う姿勢が少しずつ評価され、知名度も徐々に上がって、通信販売での売上も伸びている。今では雑誌の取材を受けるほどだ。おかげさまでこの時期は特に忙しく、一人で切り盛りするのは大変だ。

「このラッピングも大人っぽくてステキですねぇ」

 美佳ちゃんがガラスのショーケースの中を覗き込んでいる。

「ありがとう。それで、できれば今日中に商品名と価格を覚えてほしいんですけど、大丈夫そう?」

 私の言葉に、美佳ちゃんが「ひえっ」と声をあげた。私はあえていたずらっぽく言う。

「チョコレート、大好きだって言ってませんでしたっけ?」
「はい。大好きです! 有名どころのはほとんど食べてます! でも、モン・トレゾーのが一番のお気に入りです!」
「それなら大丈夫ですよね」

 私がにっこり笑うと、美佳ちゃんが引きつった笑顔でうなずいた。

「き、記憶力には自信がないけど、がんばります! 大好きなものなら覚えられるはずっ」

 そうして気合い十分拳を握っている。

 なんかかわいいなあ。
< 4 / 166 >

この作品をシェア

pagetop