恋の後味はとびきり甘く
「俺も熱意だけなら負けませんよ」
「私だって負けないって自信がありますよ」
「いや、俺に勝てる人はそうそういないと思いますけど」
「それはこっちのセリフです」

 ついムキになってしまい、言い合いながら顔を見合わせた。視線がカチッと合って彼の二重の目が細められ、こらえきれないといったように口もとが弧を描いた。

 ああ、どうしよう。この笑顔が好き。

 そう思ってハッとした。

 彼が来店してくれなくて寂しく感じたのも、今日彼に会えることがどうしようもなく楽しみだったのも、私、涼介くんのことが好きだからなんだ。

 そう自分の気持ちに気づいたとたん、心が沈み始めた。

 だって、私みたいな不安定なアラサー自営業に好かれても、涼介くんだって迷惑なはずだ。

 彼みたいに明るくてやさしい人なら、学校でも友達は多いはずだし、モテるだろう。今日だってきっと気を遣って、仕事ばかりしてる私を息抜きに連れ出してくれたんだ。その気遣いを勝手に勘違いしちゃいけない。

 自分の恋心を戒めていたら車内アナウンスが流れて、涼介くんが車内の電光表示板を見上げた。
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