恋の後味はとびきり甘く
「あ、次で乗り換えですね」
「そうなんですね」
「ここの水族館は初めてですか?」
「実はそうなんです」
「じゃあ、しっかりエスコートしますね。乗り過ごさないようにしないと。鈴音さんと話してたら楽しくて夢中になってしまいます」

 彼がさらりと言った。そんなセリフを普通に言って、これ以上私を舞い上がらせないでほしい。こういうシチュエーションに免疫がなくて戸惑っているのに、今みたいに甘く微笑みながら見つめられて、これはデートなんじゃないかって勘違いしそうになってるんだから。

 切ない気持ちで見返したら、涼介くんが怪訝そうに小さく首をかしげた。

「乗り換えたらすぐですから」

 いけない。涼介くんに勘違いを気づかれないようにしなくちゃ。

「はい」と返事をして、涼介くんに促されるまま電車を降りた。

 その駅で乗り換えて水族館のある駅に着いたときには、もう辺りは薄暗くなっていた。歩道を歩いて行くうちに、目印の観覧車が見えてくる。観覧車もライトアップされていて、薄墨の空に色とりどりの明かりが映えている。

 曲がり角を曲がったらもう水族館はすぐそこだ。青い大きな建物の入口前に、ジンベエザメなど海の生き物のオブジェが置かれていて、どれもイルミネーションで青白く輝いていた。
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