恋の後味はとびきり甘く
2. 出会い
「うー、どれにしようか迷うな……」

 十月になってそろそろ肌寒くなってきたというのに、その日、彼はホワイトのパーカーにネイビーのジーンズ姿でやってきた。足もともカジュアルなスニーカーだ。まだ二十歳くらいで、甘さのある爽やかな顔立ちの彼は、店に入るなり、ショーケースの中の小さなチョコレートたちを食い入るように見つめた。

「あぁーっ……迷う」

 あんまり彼が悩んでいる様子なので、私は彼に声を掛けた。

「プレゼントですか?」

 彼は顔をあげ、今私に気づいた、と言わんばかりに瞬きをして私を見た。

 私、いらっしゃいませ、ってちゃんと声を掛けたのになぁ。

 彼は右手でポリッと頬を掻いた。

「あー、プレゼントっていうか……自分への活を入れるためっていうか」
「活?」
「はい。俺……じつは大学を中退して、今年から製菓専門学校に通い始めたんです。この前、フランスの有名ショコラティエが特別授業に来てくれたんですよ。で、その人に教わって、まだまだだな~って落ち込んで。あ、そんなのもちろんあたり前ですよね。向こうは何年も修業して店を持つまでになった人なのに、俺が敵ったらおかしいですよね」
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