恋の後味はとびきり甘く
 でも、そんなことくらい、きっと製菓学校に通っている彼ならわかっているはずだ。だからこそ、こんなふうにフラストレーションを覚えるんだろう。

 どう声を掛けたらいいかわからなくて、私はそっと手を伸ばした。テーブルの上の涼介くんの手をやさしく握る。

「鈴音さん?」
「気の利いた言葉が思いつかなくてごめんなさい。でも、なにごとも焦ったらうまくいかないでしょ? トリュフを作るときだって、チョコレートはあわてずしっかり溶かさなきゃいけないし、冷蔵庫で時間をかけて冷やさなくちゃいけない。だから……焦らないで、あわてないで、自分をじっくり育てるつもりで、ね?」

 涼介くんが私の手を握り返した。

「ありがとうございます。本当はまだ鈴音さんに心底おいしいって思ってもらえないだろうなっていうのは自分でわかってました。でも、少しでも鈴音さんに追いつきたくて」
「わ、たしに?」

 追いつくってどういうこと?

 涼介くんを見ると、彼が目を伏せた。

「俺はまだ二十歳の未熟者だし」
「そんなことないですよ。夢と希望あふれる若者って感じで……」
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