恋の後味はとびきり甘く
 いや、私もまだ若者だと自認してるけど。

「私だってまだまだ未熟者の若輩者です。店を持ったから夢が叶ったってわけじゃない。現状にとどまってちゃいけないんです」
「鈴音さん……」

 涼介くんが立ち上がって促すように私の手を強く引くので、私も立ち上がった。彼の手が離れたかと思ったら、抱きしめられて彼の両腕の中に閉じ込められた。

「りょ、涼介くん?」

 彼の腕に力がこもって痛いくらいだ。

「ど、どうしたんですか?」

 彼がなにも言わないので、私は彼の腕の中でじっとしていた。百七十センチの私を余裕で包み込む彼の腕の中で、どうしたら彼を元気づけられるのだろう、と考える。でも、なにも思いつかないうちに、涼介くんがふっと力を緩めた。

「閉店時間にすみませんでした。もう帰ります」

 彼が悲しそうに淡く微笑むので、こっちまで胸が苦しくなってくる。

 ねえ、そんな表情のまま帰ってほしくないの。

 どうすれば私の気持ちを伝えられる?

 私は思い切って背伸びをして、彼をギュッと抱きしめた。自分から彼を抱きしめるなんて大胆なことをしてしまい、手を回した彼の背中は広くて大きくて、鼓動がどんどん高くなる。それでも、どうにか彼への気持ちを言葉にする。
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