恋の後味はとびきり甘く
 咲恵さんの言葉を聞いて、私はゆっくりとショーケースにもたれた。そうでもしないと、もう立っていられなかった。

「やっぱりあのふたり……カップルに見えますよね」
「あら、鈴音さん、彼と知り合いみたいだったから、知ってるんだと思ったんだけど」

 咲恵さんに言われて、私は泣きたい気持ちをどうにかこらえて微笑んだ。

「彼はときどき来てくれるお客様なんです」
「そうなんだ。甘党なのかな?」
「製菓専門学校生なんです」
「あー、だから『こだわりチョコレートの店、モン・トレゾー』をチェックしてるってわけなのね。さすが専門学校生は勉強熱心ね」

 そう言って咲恵さんが笑った。

 咲恵さんの言うとおりだ。彼にとって私はただのチョコレートショップのオーナー。興味があるのはどうやって起業したかということ。

 でも、それじゃあ、あれは? 水族館でデートして、手をつないで、キスしてくれたのは、なんだったの?

 ただ雰囲気に流されただけ……? 彼は雰囲気でキスできるような人だったの……?

 もうなにがなんだかわからない。
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