恋の後味はとびきり甘く
 涼介くんが洋食屋さんでバイトしてたなんて初耳だ。

 私は涼介くんが製菓専門学校の一年生だということしか知らない。でも、さっきのユキさんは涼介くんのことをいっぱい知ってるんだろうな。同じ学校で、涼介くんに呼び捨てにされて、バイト先に遊びに行ったこともあって。

「腕なんか組んじゃって」

 思わず声に出してしまう。

 手をつないだ私とキスするくらいだ。腕を組んだ彼女とはそれ以上のことだって……。

 嫌だ。

 自分の想像に嫌悪が込み上げ、大きく首を振る。

 涼介くんは誰彼かまわず手を出すような男性じゃない。そう信じたいけど……私は涼介くんのことをほとんど知らないのだ。声が聞きたいと思っても電話番号も知らない。会いたいと思っても住所も知らない。いつ来てくれるかわからない彼を待つしかない。

 それじゃあ、彼にとって私っていったいなんなの……?

 何度も同じことを考えて、出口が見えない。胸が苦しくてたまらなくなったとき、店のドアが開く音がした。視線を向けると、五十代くらいの女性が入ってくるのが見えた。
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