かわいい君まであと少し
【1】ウソツキがいっぱい
「ごめんなさい」
 私が頭を下げ、そう言うと望月課長は「そうか」と呟き、タバコに火を点けた。
「やっぱり、長く付き合っている相手には勝てないか」
 タバコの煙は細い線を描きながら空へと消えてく。その情景を眺めながら風でなびく髪の毛を押さえた。
 空は雲ひとつない青空。せっかく外にいるのだから、もっと新鮮な空気を吸ってリフレッシュできたら幸せだろう。
 今はそんな状況にではない。会議室にあるベランダで私は営業部で一番モテる男を振ったのだから。
 もう付き合っているのか、付き合っていないのかも、全くわからない相手のために義理立てをした。
 頭の中にはどうして私を好きになってくれたのか、という疑問が浮かぶ。
 もう断ってしまったのだから、私が何かを聞くこともできない。だからもう一度「ごめんなさい」と呟いた。
「そんなに謝るな。藤崎は何も悪いことなんてしてないだろ。自分の気持ちを正直に言ってくれただけ。彼氏の居ない間に少しでも入り込めたらと思ったんだけどさ」
 望月課長は吸い殻を携帯灰皿の中に入れると、会議室につながる窓を開けて「冷えただろ、入れ」と言った。
 私は素直に中に入り、望月課長も会議室に入ってきた。
 そして会議用のテーブルの上に置いてあったコンビニの袋を漁りだした。
「はい」
「あの?」
 目の前に差し出されたサンドイッチを見て、戸惑った。

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