かわいい君まであと少し
「怜子さん、また先輩と一緒に遊びに来てください」
「はい。またアプリ見せてくださいね」
「是非」
 何だか別れがたい。ずっとこのままともいかず、望月課長がドアノブに手を掛けた。
「じゃあ、帰るな。行こう、怜子」
「はい」
 志穂ちゃんはもう一度「ともだちね」と言って、手を振っていた。
 聡さんは少し涙目になっていた。
 駐車場へと向かい、車でアパートへ帰る間、私たちはずっと無言だった。
 こうやって三人でいるのもあと二日。何か楽しいことを三人でできたらいいなとずっと考えていた。
 志穂ちゃんをお風呂に入れるとき、自分の手に持っているアヒルの人形を見て思いついた。志穂ちゃんの体を洗ってあげている望月課長の背中を見ながら、あとで聞いてみようと思った。
 志穂ちゃんが寝付き、いつものように壁に寄せられたいテーブルに向かい合って座る。
「明日、天気もいいみたいだし、三人で動物園に行きませんか?」
 そう言うと、望月課長が笑い始めた。
「ちょっと、何ですか?」
「いや、俺も車の中で同じこと考えてたから。うれしいのと、面白いのと、すごいなっていうのが混ざったら、笑いが込み上げてきた。ごめん、行こう。きっと志穂も喜ぶよ」
 そっか。二人して同じことを考えていたんだ。うん、望月課長が笑いたくなる気持ちもわかる。私も同じように笑いたい気分だ。
「怜子も何笑ってるんだよ」
「望月課長と同じ理由です」
「あ、また望月課長。今朝は名前呼んでくれたのにな」

< 127 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop