かわいい君まであと少し
 あ、布団の中でのことか。ちゃんと聞こえていたのか。
 今朝はあのままアラームの音で二人とも目を覚まし、何だかものすごく恥ずかしくて一目散に自分の部屋に戻った。そして根性で気持ちを立て直し、朝を乗り切った。
「今朝って何のことですか? 夢じゃないんですか?」
「いや、あれは夢じゃない。もし夢だったとしても、今言えば現実になるし。ほら“悠太さん”って」
「絶対言いません」
「怜子の悠太さんスイッチはどこにあるんだろうな。まだ、二回しかそのスイッチは押されていないし、しかも一回押したら永久じゃないのが面倒だよな。どうなってるんだ?」
「知りませんよ」
 私の反応を楽しそうに見ながらコーヒーを飲んでいる。
 結構いじわるな人だよね、望月課長って。
「どこの動物園にするかな。あ、総合公園っていうのもいいな。散歩もできるし、動物のふれいあコーナーもあるし。あとで調べておく」
「いいですね。ずっと動物だけでも飽きちゃうだろうし。それならお弁当持って行きましょう」
「作ってくれるのか?」
「もちろん。ただし二人にもお手伝いしてもらいますから」
 望月課長は少し嫌そうな顔をしながらも「任せろ」と言った。
 本気で料理なんかさせませんよ。お弁当に詰めてもらう程度ですから。
「じゃあ、私そろそろ帰りますね」
「そうだな」
 玄関の鍵を開けた時、返しそびれた合鍵のことを思い出した。ポケットからキーホルダーを出し、合鍵だけを外した。

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