かわいい君まであと少し
 望月課長は井上さんから言葉を引き継ぐように説明を始めた。
「それでとりあえず俺とお見合いをして、付き合ってぽくみせようってことになったんだ。あくまでも付き合ってるふりではなくて、付き合ってるかもしれないふりね。社内で軽く噂になればいいと思ったんだ。そうすれば、専務もお見合い攻撃は止めて、様子を見るだろうし」
 井上さんはまた「ごめんなさい」と言ってくる。
「別に私に謝らなくてもいいですよ」
「でも、望月さんの彼女さんですよね」
「え?」と言う、私の返しに「あれ?」と、井上さんが疑問を投げかける。
「絵里さん、あの、そこは追い追いね」
 望月課長は苦笑いをしなが言った。
「あ、何だかすみません。どうぞごゆっくりお召し上がりください」
 井上さんは足早に厨房へ戻っていった。
「サラダ、食べよう」と言って、望月課長はサラダを取り分けてくれた。
 サラダを食べながら、店内を眺めた。天井からはガラス製のランプシェイドが付けられ、電球の光をきらきらと反射させている。
 テーブルには海をイメージしているのか、薄いブルーのシェルが描かれているテーブルクロスが掛けられていた。窓から見える海を眺めながら、ここで本を読んだら気持ちいだろうなと思った。
「あの、さっきから気になってたんですけど、どうして私たちしかお客さんがいないんですか?」
「ここはまだオープンしてない。オープン予定日は来月」
「そうなんですか。こんな忙しい時期に、私たちが来てよかったんですか?」

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