かわいい君まであと少し
 志穂ちゃんを膝に座らせているもの、志穂ちゃんとウサギのぬいぐるみで遊んでいるもの。
 三人で過ごした時間が蘇ってきた。
「あの封筒中、もう一度確認してもらえますか?」
 聡さんに言われて、封筒の中を覗き込んだ。中には写真が一枚だけ残っていた。その写真には私が写っていた。これはあの噴水の前で望月課長を呼んでいる写真だった。
「このアルバム、先輩に頼まれたんです。知り合いの業者でちゃんとしたフォトアルバムを作れるところはないかって」
 聡さんは「夕飯を奢るよりも先にアルバムの件で連絡がきたからびっくりしちゃいましたよ」と言って笑った。
「SDカードでデータを預かったんです。でも、この部屋にあるプリンタを使わせてくれって言ってきたんです。普通に写真としてプリントアウトしたいって。それで先週の日曜日はずっとこの部屋にいたんです。写真はそのときの忘れものです」
「あの、どうしてこれを私に?」
「先輩が自分から藤崎さんには会いにいけないからって言って。僕はこのアルバムは二人でみてもらいたいなって思って」
 アルバムと一枚だけの写真を見て覚悟がついた。
「聡さん、ありがとうございます。今からこれ、渡してきます」
「はい。頑張ってください」
「はい」
 聡さんに玄関で見送られ、急いでアパートに戻った。
 望月課長、今日は残業じゃないかな。家にいるのかな。
 そんなことを考えながらインターフォンを押した。

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