かわいい君まであと少し
 望月課長はイスに座り、空いているもう片方の手で袋の中を再び漁っている。
「昼飯、おごる。あと三十分で昼休みが終わるからとっと食べたほうがいい」
「はい。ありがとうございます」
 サンドイッチを受け取り、パッケージを開けた。
 望月課長はあんパンに齧りついた。
「いただきます」
 サンドイッチの中身は、私が好きな玉子とハムだった。
「あっ、これお茶」と言って、キャップを軽く開けてから私に手渡した。
「望月課長って、優しいですね」
「なんだ、ちょっと好きになったか?」
「いいえ」
「そっか。女心を動かすのは難しいな」
 望月課長を見て思う。そんなことないくせに、と。
 その整った顔立ちで“好きだ”って言われたら、女性はみんなドキッとすると思う。さっきの私もそうだった。
 もし付き合っている人がいなければ、少し考えさせてくださいって言ったと思う。
 そんなことを考えていると香ばしいカレーの匂いが漂ってきた。
「なんだかカレーのいい香りがしますね」
 隣にいる望月課長の手にはカレーパンが握られていた。
 いつの間にあんパンを食べきったのだろうと思い、カレーパンを見つめた。
「ああ、これの匂いか」
「望月課長、もしかして期間限定発売されているカレーパンじゃありません?」
「そうなのか? 適当につかんだから」
「そうですよ、このパッケージ。会社の近くのコンビニですか?」
「ああ。ここからも見えるあのコンビニ」
 望月課長は軽く立ち上がり、窓の向こうに見えるコンビニを指さした。

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