かわいい君まであと少し
「ありがとう、お姉ちゃん。お義兄さんのほうはどうですか?」
「なかなか、いい感じに収まったよ。怜子ちゃん、おいで」
 本棚の前に行くと、文庫、単行本が綺麗にならんでいた。本棚の中央部分には何も入っていなかった。
「ここ、どうして空けているんですか?」
「ここには、これを面が見えるように置いて」
 手渡されたのは、私が欲しがっていた写真集だった。
 それは姉と竹井さんの引っ越しを手伝ったときに欲しいと思ってしまった写真集だ。
 私が大学生の頃から好きな写真家さんがいた。
 水中の中に部屋や森、草原を作り、そこでモデルさんが楽しそうに遊んでいたり、神秘的な世界だったりして、水の中とは思えないけれど、水の効果で別の世界を作り上げる。そんな写真を撮る人だった。
 この写真家さんは十年前に亡くなっていて、デビュー作の写真集は絶版になっている。ネットでは高値で売買されているが、社会人になった今でも買うのはきついなと思ってしまう値段だった。
 その写真集を竹井さんが持っていたのだ。この作品の価値を知っている私としては、さすがに欲しいなんて口が裂けても言えなかった。ただ、見ることができただけでも幸せだなと思っていた。
 その本を手渡されたのだ。
「これ、いいんですか?」
「うん。怜子ちゃんが好きな写真家さんだって、香子(キョウコ)に聞いたから。それに、その写真集、目をキラキラさせながら見ていたでしょ。たぶん、写真家さんもそんなふうに自分の作品を見てもらうのが一番うれしいと思う。これは怜子ちゃんが持ってて。僕からの引っ越し祝い」

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