かわいい君まであと少し
「ありがとうございます。大切にします」
 竹井さんに頭を下げて、本棚に表紙が見えるように置いた。
 水の中に沈められた、赤、ピンク、紫の花々の上に、白いロング丈のワンピースを着たモデルさんが人魚のように横たわっている。
 たった一つの写真集があるだけで、自分の部屋が宝物のように思えた。
「怜子、よかったね」
「うん。もうそろそろで五時か。私、大家さんに挨拶に行ってくる」
「わかった。キッチン借りてもいい?」
「いいよ。何か作ってくれるの?」
 姉はキッチンに置いてあった紙袋を持ってきて、中の私に見せてきた。
「あ、そば!」
「うん。ネットのお取り寄せで買ったの。すごく美味しいって評判なんだよ。みんなで引っ越しそば食べよう」
「ありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくるね」
 粗品の洗剤を持って、歩いて五分くらいの場所にある杉田さんの家へ向かった。
 インターフォンを鳴らすと杉田さんが笑顔で出てきた。前、姉と一緒にあった時も笑顔のかわいい人だなと思った。それは今日も健在だった。
「こんばんは。今日、引っ越してきました藤崎です。どうぞよろしくお願いいたします。これ、よろしかったらお使いください」
 粗品の入った袋を手渡した。
 杉田さんは「まあ、ご丁寧にありがとうございます」と言って、受け取ってくれた。

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