かわいい君まであと少し
「泣きやんだ。すごいな、藤崎」
「望月課長の顔が怖いんですよ。事情はよくわかりませんが、頑張ってください。私はこれで失礼します」
 足元に置いておいた買い物袋を持ち、赤ちゃんに背を向けた瞬間だった。
 後ろから泣き止んだはずの赤ちゃんが、また泣き始めてしまったのだ。

「ああ、ほらほら、よしよし」
 望月課長は軽く体を揺らして、赤ちゃんをあやすが効果はやっぱりない。
「藤崎、助けてくれ」
 ここは廊下だし、どこかから苦情がきても困る。
 望月課長から赤ちゃんを受け取り、背中を軽く摩るとすぐに泣きなんだ。

「助かった。ありがとう、藤崎。少しの間、志穂を抱っこしていてくれないか? ベビーカーや荷物を部屋に入れたいんだ」
「わかりました」
 玄関先に置かれていた、ボストンバックと紙袋を靴箱の上に置き、ベビーカーを折りたたみ靴箱に立て掛けた。そして、なぜか私の買い物袋まで自分の部屋に入れようとしている。

「いや、それ私の荷物です」
「中に入れよ」
「どうしてですか?」
「お隣さんへの挨拶。美味いコーヒー入れるから」
 赤ちゃんを抱っこしているせいで大きな声も出せないし、ちょっとした苛立ちを表に出してしまうと、また赤ちゃんが泣いてしまう気がした。仕方なく、部屋に上がることにした。
「おじゃまします」

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