かわいい君まであと少し
「家の近くのコンビニだと、このカレーパン、売り切れで。帰り買って帰ろう」
 今日の楽しみができたと思いながらサンドイッチを頬張っていると視線を感じた。隣に目を向けると楽しそうに笑う望月課長がいた。
「うーん、振られたけど諦めないことにした」
 その言葉にビックリして目を見開いた。まさか、そんなことを言われるとは思わなかった。
「そんな驚いた顔しないくれ。こう見えて結構一途なんだ。そう簡単には諦められない。片思いの時間が長かったし、そんな時間がまた増えても大した問題でもないから」
 望月課長は聞き捨てならない言葉をつらつらと言った。
 前から私のこと好きだったのかな? そんな素振り一度もなかった気がする。
 三月の下旬、季節は春のはず。細く開いた窓から入ってくるのは冬を思わせる冷たい風だった。それはベランダに居たときよりも冷たく思えた。
「かわいいな。顔、真っ赤」
 にこにこしながらカレーパンを頬張る望月課長に背を向けた。
「あ、うなじまで赤くなってる」
 背を向けたまま「ほっといてください」と言うと、後ろからくっくっと笑う声が聞こえた。
 残りのサンドイッチを猛スピードで食べ終え「サンドイッチとお茶、ごちそうさまでした。お先に失礼します」と言って、イスから立ち上がった。
「どういたしまして。午後の業務もよろしく。それから、いつでもおいで」
 望月課長はゆったりと言った。まるで、そういう未来がそのうちくるという自信も少し感じた。

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