かわいい君まであと少し
 テーブルに置かれたマグカップを取り、口をつけた。
 安いインスタントじゃなくて、ちゃんと挽いた豆を使っているんだ。
 弱くささくれ立った感情が少しだけ穏やかになった。

「なんかあったのか?」
「別に何もありません」
「松本がなんかやったか?」
「まあ……、よくわかりましたね」
 望月課長もコーヒーを一口飲み、なんとも言いにくそうに口を開いた。

「松本って、女好きかなと思って」
「間違えないですね。私が知っている限りでは三回浮気しました」
「あー、やっぱり」
 なんだ、その反応は。そんなに浮気をしそうな性格だったのかな? 結果はそうだけど、何かを知っているような口ぶり。
「やっぱりって、なんですか?」
「これは俺の勘なんだけど、松本と付き合いだしたのって、三年前くらいだよな」
「はい」

「松本が藤崎じゃない女と歩いてるのを見たんだよ」
「その人って小柄でかわいらしい女の子じゃありませんか?」
「いや、背が高くてスラッとした女。たぶん、付き合い出して少し経ったくらいの頃」
「ニセ妹じゃなくて、大学生の友達か」
 小さい声でぼそっと言うと「何言ってんだ?」と望月課長が言った。
「いえ。よくわかりましたね。私と松本が付き合い始めた時期とか」
「そんなの見てればわかる。付き合っている奴らは距離が近いんだよ。一つの書類を一緒に見るときの距離とか、パソコンを覗き込んだときの顔と顔の距離とか」

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