かわいい君まであと少し
 何事にも自信がなければ営業部第二課の課長なんてなれないものかもしなれないと思いながら、会議室を出た。

「あのお見合い相手、今日も待ってるよ」
「本当だ。あ、望月課長だ」
「ああ、お似合いだよね。でも意外。望月課長がお見合いで結婚相手決めるなんて」
「そうだよね。望月課長なら選び放題でしょ」
 後輩の子たちが窓から見える会社のエントランスを眺めながら話している。それがこっちにまで聞こえてきた。
 ああ、男なんて信じない。ここの数週間で嫌というほど実感した。
「ああ、望月課長って、案外奥手。手ぐらい握っちゃえばいいのに」
「いや、職場近くで手は握らないでしょ」
「そっか」
 彼女たちのおかげで見てもいないのに、望月課長とお見合い相手さんの状況がわかってしまいげんなりした。
 人にわからないような溜息を吐いてから帰り支度を始めた。トレンチコートを羽織り、鞄を手に持った。そのときには窓の近くにいた後輩たちは居なくなり、かわいい笑顔を撒き散らしながら帰って行った。
 何となく窓のほうに視線を向けた。もう望月課長はいないんだな。小さく胸が痛くなった。
「お疲れさまです。お先に失礼します」
 残業の人たちに挨拶をして自分のデスクから離れた。
 外に出ると風が冷たかった。四月の半ばだというのにこの寒さはなんだろう。
 心が冷えているときはせめて気候くらいは温かくなってよ、と自分勝手な都合を空に投げかける。

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