かわいい君まであと少し
「まあ、うん。ありがとう」
 望月課長は足音を立てないように、着替えを持ってからお風呂場へと向かった。
 眠る志穂ちゃんの隣に体を横たえた。引っ越しと志穂ちゃんのことでさすがに疲れを感じる。
 薄暗い部屋の中、遠くにシャワーの音が聞こえ、近くには人の寝息と温もり。一人暮らし歴が五年となり、部屋の静寂も当たり前となっていた。でも、人がいる音というのは、やっぱり安心するものだった。

――ウッ、ギャーアー、ギャーアー

 えっ!
 突然の泣き声に驚き、衝動的に体を起こした。
 隣に泣いている志穂ちゃんいた。そして、その向こうには起き上った望月課長がいた。
 望月課長はリモコンでライトを点けた。

「志穂ちゃん、どうしたかな? 怖い夢見た? それともオムツかな?」
 志穂ちゃんを抱きかかえるように膝の上に乗せた。オムツのあたりを触ってみても、問題ないようだった。

 そして手を握ると少し汗ばんでいた。
「志穂、少し汗かいてるな」
「そうみたいですね。布団が暑かったんでしょうか?」
「かもな。パジャマを着替えさせるほどでもないみたいだな」
「はい。手が汗ばんでるみたいなんで、タオルありますか?」
 望月課長は「ちょっと待ってろ」と言って、押し入れの中にあるケースからハンドタオルを取り出した。
 志穂ちゃんの手や額を軽く拭いて、背中を摩ると泣き止んでくれた。

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