かわいい君まであと少し
「志穂、俺にはそんな挨拶してくれなかったよな。不公平だぞ。志穂、ほら、こっちにおいで」
 謎の対抗心を燃やした望月課長は両腕を広げて、志穂ちゃんが来るのを待機している。
 でも、志穂ちゃんは私から離れようとしない。
「志穂ちゃんは私のほうが好きなんだよね」
「しほ、すき」
「そっか。叔父さんより好きなんだ。うれしい! 私も志穂ちゃんが大好きだよ」
 望月課長は未だに両腕を広げた状態だ。
「いつまでその格好でいるつもりですか?」
「志穂がこっちに来てくれるまで」
「志穂ちゃん、叔父さんが可哀想だからあっちに行ってあげて」
 志穂ちゃんは私の体に腕をまわした状態で首だけを望月課長のほうに少し動かし、しょうがないなという感じで望月課長の腕の中に収まった。
「志穂ー」
 望月課長が一晩で親バカになっている気がする。朝、なにかあったのかな? まっ、いいか。
「望月課長、キッチンまたお借りしますね」
「ああ」
 トートバッグからエプロンを取り出し、朝ごはんの準備に取り掛かった。
 持ってきたご飯を朝使う分以外は冷凍庫に入れる。
 昨日買った食材はここの冷蔵庫に入れてしまった。昨日の余った野菜を刻んで雑炊の下準備を始めた。
 鍋にご飯と野菜と水を入れ、頃合いを見て溶き卵としょう油を入れる。味見をしてから志穂ちゃん用のお椀に雑炊をよそる。
 突然、志穂ちゃんが「きゃー」と言って拍手を始めた。何かと思い二人のほうを見ると、テレビではカラフルな人形が踊りながら歌っていた。志穂ちゃんもそれに合わせて楽しそうに手拍子をしていたのだ。

< 51 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop