かわいい君まであと少し
 買い物が終わり、車に乗り込んだ。後部座席にはチャイルドシートとオムツが占領していたため必然的に助手席に座った。
「怜子、悪いけど、これ、袋から出してくれるか」
 手渡されたのは二十枚入りの白い封筒だった。袋から一枚だけ取り出し、望月課長に手渡す。
 すると、お財布からお金を出すのが見えたので視線をそらした。
「真面目だな」
「お金関係のこと見られるのが嫌な人って多いですから」
「これは聡に渡す志穂の食事代や諸経費。さすがにそのまま渡すのは悪いからな」
「自分だって真面目じゃないですか」
「それなりの年数生きてるからな。マナーが自然と出るんだよ」
 お財布と封筒をしまうと「余った封筒、そこのグローブボックスに入れといて」と言われた。
「妹さんの車なのにいいんですか?」
「あ、そうだった」
「いいですよ。とりあえず私が持っておきますから」
 自分のバッグにしまい、シートベルトをした。
「一時間半か、結構時間かかったな」
「ですね。志穂ちゃんが待ってます。早く帰りましょう」
 望月課長の運転する車はゆっくりと発車した。流れる景色を見ながらぼんやりとしていた。
「疲れたか?」
「いえ」
 口数の少ない十分間が終わると、聡さんのアパートが見えてくる。車を駐車場に停め、聡さんに渡つ物だけを持って部屋に戻った。

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