かわいい君まであと少し
 インターフォンを鳴らすと、静かにドアが開いた。
「おかえりなさい。今、志穂ちゃんが寝ているんで静かにお願いします」
 私たちは物音を立てないように、そっと部屋に上がった。
 志穂ちゃんはベッドの上でぐっすり寝ていた。
「志穂、大丈夫だったか?」
「はい。大人しくていい子ですね。明日からの五日間、僕と志穂ちゃんだけ大丈夫ですよ」
「そっか」
 志穂ちゃんが寝ているため、二人とも小さな声で話している。
 その会話を聞きながら志穂ちゃんの顔を覗き込んだ。口を薄く開けて、小さな寝息を立てる。ウサギとサルのぬいぐるみも一緒に布団に包まっていた。
「いや、いいですよ」
「受け取れ」
 二人の会話が気になり後ろを見ると、テーブルの上にある封筒が二人の間を行き来していた。
「何してるんですか?」
「怜子からも言ってくれ。食費代を受け取れって」
「怜子さんからも言ってください。子供の食事代はそんなにかからないって」
 二人してなぜ私に言うんだ。
 仕方ないと思い、聡さんに聞こえる範囲のボリュームで話しかけた。
「聡さん、受け取ってあげてください」
「え?」
「望月課長も私も、志穂ちゃんを預かってすごく大変だったんです。もう昨日は二人してオロオロしちゃって。望月課長の性格なら聡さんにシッター代も払いたいぐらいだと思うんです。ただ、聡さんの性格もわかっている望月課長は、せめて食費代はちゃんと払いたいんですよ、きっと。だから受け取ってください」

< 83 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop