かわいい君まであと少し
 時計を見ると、少しゆっくりとし過ぎたみたいだった。
「もう、こんな時間ですよ。急がないと」
「本当だ。志穂、歯磨きするぞ」
 私は急いで食器を洗い始めた。
 朝は食器が少なくて済むような料理にしないとだめだな。
 しっかり拭く時間がなく、軽く拭いて水切りかごの中に食器を並べた。
 望月課長はトートバッグに入っているものを確認していた。
 私は洗面所で歯磨きをしながら、何か忘れ物はないかを思い返していた。
「怜子」
「はーい」
「そろそろ出ないと俺たちが遅刻する」
「すぐ行きます」
 口を濯ぎ、急いで荷物を持った。
「行きましょう」
「ああ」
 望月課長は志穂ちゃんを抱っこし、そのまま玄関を出た。私は志穂ちゃんの靴を持った。
 志穂ちゃんを片手に鍵を閉めようとしている望月課長の手から鍵を取り、代わりに閉めた。そしてスーツのポケットに鍵を滑り込ませた。
「よし」と言って、歩き出した望月課長の後ろを歩く。
 望月課長の肩に顔を乗せている志穂ちゃんが顔を上げ私に手を振ってきた。私も同じように手を振った。そして望月課長の肩にまた顔を埋めた。
 車に乗り込み、志穂ちゃんをチャイルドシートに乗せ、私たちもシートベルトを締めた。
「車、出してもいいか」
「はい。時間、大丈夫ですか?」
「急いで出たから問題ない」
 望月課長は車を発進させた。朝の道路は混雑するところもある。望月課長は上手い具合に裏道を使いながら渋滞を避けて行った。

< 93 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop