かわいい君まであと少し
 志穂ちゃんに靴を履かせると、ご飯を食べた後だからか少し眠そうだった。バックからタオルケット取り出し、体に掛けてあげる。頭を撫でると目をゆっくりと閉じた。
「なんか静かだけど」
「志穂ちゃん、寝ちゃいました」
「そうか」
 志穂ちゃんを起こさないように、私たちは聡さんのマンションに着くまで何も話さなかった。
 車が駐車場に停まると、それを合図にしたかのように志穂ちゃんが目を覚ました。
「志穂、これから聡のところに行くよ」
 望月課長がチャイルドシートから志穂ちゃんを抱き上げた。
「ベビーカーも一緒に預けたほうがいいですよね」
「そうだな。怜子、志穂を頼む」
 私が代わりに志穂ちゃんを抱っこする。望月課長はトランクからベビーカーを下し広げた。
 まだ眠そうな志穂ちゃんをそこに乗せて、聡さんの部屋へ向かった。
 インターフォンを鳴らせば、昨日と同じエプロンをした聡さんが現れる。
「おはようございます」
 玄関にベビーカーを入れると、聡さんが志穂ちゃんを抱き上げた。
「志穂ちゃん、眠いのかな? ほら、ゆたとれいがお仕事に行くから、バイバイしないと」
 聡さんが志穂ちゃんの右手を握った。
「志穂、夕方には迎えにくるから、それまで聡と仲良くしているんだぞ」
「志穂ちゃん、行くね」と言うと、志穂ちゃんは「バイバイ」と言って、ちょっとさびしそうな顔で手を振った。
「聡、志穂のことよろしく。何かあれば、俺でも怜子でもいいから、連絡してくれ」

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