かわいい君まであと少し
「それからさっきも言いましたけど、職場では藤崎でお願いします。あと、志穂ちゃんのことなどはスマホにメールください」
「ああ、わかったよ。でも、うれしいな」
「何がですか?」
「怜子って呼ぶの認めてくれて」
「認めてません。諦めたんです」
「素直じゃないな」と言って、望月課長はルームミラー越しこっち見てきた。
 私は窓のほうに視線をずらし「今日は仕事、何時に終わりそうですか?」と聞いた。
「今日は長引きそうな会議もないしから五時過ぎには終わるよ。そっちは?」
「私も同じくらいに終わります」
 望月課長が少し奥まった道路に車を停めた。
「ここなら会社の人間にも見られないだろ。あとでどこの駐車場に停めたかメールする」
「わかりました。じゃあ、また会社で」
「ああ」
 車を降りると望月課長は軽く片手を上げた。私も手を振り返した。
 周りをちょっと気にしながら歩く。とくに見知った顔はなかった。

 会社に着くと江口君がパソコンとにらめっこをしていた。
「おはよう、江口君」
「おはようございます」
「わからないところがあるなら教えようか?」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。田中さんに聞きますから」
「そう」
 なるほどね。由加里は江口君ってタイプかな? それ以前に年下をどう思ってるんだろう。
 そんなことを考えながら仕事の準備をしていると「何ニヤニヤしてるの?」と言って、背後から由加里が現れた。

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