かわいい君まであと少し
「うわっ、びっくりした」
「そんなに驚くこと?」
「いや、普通のことだね」
 パソコンのモニターに電源を入れると、由加里は「新居はどう?」と聞いてきた。
「まあままだよ」
 あまり語らないようにしよう。特に志穂ちゃんを預かっている間は。
「そう。これ、頼まれてた資料」
「ありがとう」
 由加里はそれを渡すと、自分のデスクに戻った。
 江口君のほうに視線を動かすと、パソコンのお勉強は一旦終了したみたいだった。そして、少しだけ由加里のほうを見てからまたパソコンのほうに顔を戻した。
 うーん、これは江口君がそうとう頑張らないと由加里は動かないな。
 何の気なしに、視線を動かすと望月課長が見えた。
 職場の望月課長はいたってクールだ。特別不機嫌でもないけど、特別愛想がいいわけでもない。仕事に関しては妥協を許さなし人だ。
 私はそんな人とこの二日間ほとんど一緒にいた。志穂ちゃんのことがあったから、あまり気にせずに受け入れてしまったが、プライベートの望月課長って結構別人だと思う。
 今朝、この上なくいい笑顔でオムレツを頬張っていた人が、今は厳しい顔で書類を見つめている。ある種の衝撃映像だな。そんなことを考えている場合じゃない。仕事、仕事。
 エクセルで管理している予定表を開いて、先週の予定を見直し今週の予定を確認する。
 今週は残業を避けたい。そのためにも無駄な時間はなくさないと。
 絶対に動かせない予定を基準にして、何かで仕事がずれ込んだ時の対応を考える。
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