ピュアに恋して♪
「・・・ただいま」
まるで義務のようにそう言って靴を脱ぐ。
隅っこにそろえて置くと、洗面所に向かう。
おかえり、そう答えてくれる“家族”なんていない。
そもそも、ここに“家族”はいない。
「・・・のよ。・・・ために・・」
リビングから声が漏れ聞こえてくる。
それは、母さんのものだった。
外面を気にしてか、“母さん”と呼ぶように言われ、断れるわけもなくそれに従う。
でも、実際に呼んだのは数えるほどだ。
「いくらエスカレーター式で上がれるからって、勉強はちゃんとしなさい。あなたのために言ってるのよ。こんな中途半端な成績じゃダメよ。もっと頑張りなさい」
リビングを通り過ぎたところにある洗面所に向かう途中、そんな声が聞こえた。
母さん、が話しているのは秋人だろう。
教育熱心な両親らしく、いつも厳しく言われているのを聞く。
その分、俺の事を放置してくれているから気が楽だ。
でも。
秋人が、ひねくれてるのは・・・あの両親のせいかもしれない。