timetraveling
その翌日、私の心に更なる変化が現れた。
私はいつしか日曜日の昼下がりにマンションから少し離れた公園に出掛けるのが習慣になっていた。
何かを忘れようと必死だったのかも知れない。
公園には大きなポプラの樹がそびえていて、そこがなんだかよかった。
1人の男性が折り畳み式の椅子に腰掛けてポプラの樹をスケッチしている。
それはまさに今を焼き付けるように熱心な佇まいで。
家族連れや犬の散歩のおばさん、日向ぼっこのお爺さん等がチラホラいる中、ただ一点、ポプラだけに集中する精神力が凄いと思った。
そこへ1人の女性が近づいてきた。

「調子どう?仕上がり時期はどんな感じ?」
男性はなんにも言わずにただペンを動かしている。

彼女だろうか。

「ねぇってば。まこと!」
まことっていうんだと知る。

「うるせーなぁ。今やってんだろ。見てわかんねぇかこのブスッ」

彼女ではなさそうだ。

「はぁ!?うっさいこのタコ!……うん、なかなかいい感じじゃない」

「この直線と葉ならびのバランスが微妙なとこだ。写実感はなんとか省けたんだがな」

「ううん。上出来じゃん。で、いつ頃頂けるのかしら?」

「週末だな。塗りに時間かかる」

「了解ダーリン」

「ばか」

と言ったその時、その2人と私はばったり目が合った。

「あーあ、聞かれちゃった。ねぇダーリン」

「誰がダーリンだばか!ゴメン、散歩の邪魔したね」
初めてこちらに向けられたその声は、低音だけど低すぎない心地よい響きで私を包んだ。
少し茶色い髪、整った顔、優しい表情。
素敵な人だなと思った。

「あれ…あなたもしかするとミキのお友達?」
女性がたずねる。

「え…ミキを知ってるんですか?」

「やっぱり! 確か名前は…理沙ちゃんだね」
ピタリと当てはまる答えにびっくりした。

「どうして私の事知ってるんですか…?」

「ミキの部屋にね、理沙ちゃんとミキのツーショット写真が飾ってあって教えてもらったの」










< 3 / 10 >

この作品をシェア

pagetop