REGRET
変われ私!
”205、206、...209”
一瞬息が詰まりそうな音だった。
「希...?」
「あはは!どうしたのそんな顔しちゃって。」
私は希の反応に対し、心に安心感が芽生えた。
「やったね!」
「うん♪♪」
2人はある孤独化した空間に入ったかのように抱きしめあった。
晴れて私たちは4月から高校生活が待っていた。



ーREGRETー
私は今もまだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
「ねぇ、希。」
私は希の同級生とは思えない堂々とした態度に心が飲み込まれそうだった。
「どうした、菫?」
「や、桜きれいだね。」
先週まで蕾だったはずの桜がいかにも私たちを祝福してるかのように顔を覗かせていた。
学校へ行く途中、同じ制服を着ている人たちが私たちの横を通り過ぎていく。

いよいよ私の通う学校に着いた。
家からは大木ノ橋を通り、ちょっとした迷路ゲームのような住宅地を抜け出て、末広神社を右へ曲がると後は学校へ導かれている一本道。
20分でつくはずが、今日は何時間もかかった気がした。
正門にはこれから一緒に生活する人たちでいっぱい。
私の心はいまにもこの人ごみに飲み込まれてしまいそうだった。
「菫!」
その言葉に私は”はっ!”と我に返った。
「一緒に写真とろーよ!」
希は菫の返事も待たず、近くの男子生徒に携帯を渡していた。
希とは昔からの友達である。
「菫!早く早く!」
いつものことながら希の行動力には驚かされる。
「君、もうちょっと内側に寄って。」
希が携帯を渡した男子の声に私は緊張して顔が真っ赤になった。
昇降口にはクラス表が張り出されていた。
私の願いは一つだけ...。そう思ってクラス表を恐る恐る見ると、
1年6組5番、植草菫...12番 佐藤希
叶った。私の願いである希と同じクラス。
「希。一緒のクラスだね。」
「うん!」
希もうれしそうに返事をした。

靴箱で上履きに履き替えると私たちはそのまま体育館へ誘導された。
体育館の中は見たことのない人たちでいっぱいだ。
私は緊張したが、希といるとそれも少し和らいだ。
私たちは決められたパイプいすに座った。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。」
長かった校長先生の話も終わり、校歌紹介が終わると1組から順番に体育館を退場した。
ピロティを通り、1年生のフロアへ移動していった。教室の位置は1組から玄関に近く、私のクラスである6組はなかなか遠かった。

出席番号5番の席はグラウンドが一望できる窓側で前から5番目。
1列7人だったため半分より後ろにある私の席はなかなかいい席だった。
隣の席の人はというと...希だった。
笑顔でこっちを見ている。
私にとってのこの席は好きな歌手のコンサートの最前列よりも価値があるものだった。
「菫!よろしくね!!」
「うん!」
退屈することはなさそうだ。

そんなことを思っていると前の扉から担任の先生が入ってきた。
「はーい。出席とるから自分の席座れー。」
いかにも運動部の先生といった感じだ。ジャージがよく似合っている。
先生はおもむろに何か書き始めた。私はそれを見ていると自分の顔が青ざめていくのを感じた。
そこには自己紹介という文字が書かれていたのだ。
私は発表するのが昔から苦手なのだ。

「まずは俺から!おれの名前は上原賢治。33歳でサッカー部の顧問だ。趣味は神社巡り。
1年間よろしくな!」
趣味?神社巡り??
先生の顔と趣味のギャップの違いにクラス中で失笑が起こった。
「なんだ皆!もっと笑えよ~!」
以外と冗談をいう先生なんだと気付きクラスに笑いが起こった。
「こんな風に俺は明るいクラスを作っていきたいと思っています!」

拍手が鎮まると次は生徒の番である。
4番の人が終わると次は私の番だ。さっきまでの楽しかった気持ちが嘘のように感じる。
その時声が聞こえた。
「大丈夫。落ち着いて。」
私にはそれが女神のささやきのように感じた。
声の主は隣の席の希だった。私の中で希はもう女神のような存在となっていたのだ。
「私は...植草菫です。中学はテニス部でした。趣味は音楽を聴くことです。1年間よろしくお願いします。」
みんなから拍手をもらうと私の眼には涙が溜まっていた。
次は希の番。私は希の顔をのぞくと、希の目は今にも言いたそうに輝いていた。
「佐藤希です。中学はテニス部で、植草希さんとペアを組んでやっていました。」
私は終わったはずの緊張感が希のせいで戻ってきてしまった。何これ...これは女神のいたずら?
みんなからの視線が槍のように刺さってくる。希は笑顔で座ると同時に私に謝っているような優しい笑顔で見てきた。そんな希を私は許すことしかできなかった。
40番目の人が言い終わると、次は委員会決めが行われた。
私は希と一緒に数学の教科委員会をやることに決めた。
全部が決まったところで今日は以上。と解散となり、教室から人が次々と出て行った。
どのクラスも解散らしく廊下は人で溢れ返っていた。
私も帰ろうとかばんを持ち希を呼ぼうとしたら、希は男子たちと話していた。
教室の中で私だけが孤立しているようだった。
「植草菫さんだっけ?よろしく!」
男子たちの中の一人が話しかけてきた。私は唐突過ぎて体が固まってしまった。
「よ...よろ...しく...。」
私はこの場を今すぐにでも立ち去りたかった。
「菫、帰ろっか!」
私の気持ちを察してくれたのか希が私の手を引いた。
「ばいばい!」
希は男子たちにあいさつし、私は軽く会釈してから教室を後にした。
「希、ありがとう。」
私は希に助けられ、再び希が女神のように見えた。
「いいよ、全然!私たち男子に慣れていないからいきなりだと緊張するよね。」

そうなのだ。私たちは女子中学校から来ているため、男子には慣れていないのだ。
「でも希はよくあんなにたくさんの男子と話せるね。」
「うちはお兄ちゃんが2人いるから平気なんだと思う。」
そういえば希は3人兄妹の唯一の女だった。
「菫、明日テニス部見に行こーよ。」
「えっ?なんで?」
「だって明日から部活動見学の日だよ?さっき先生言ってたじゃん。」
私は緊張しすぎて先生の話は全く聞こえていなかったのだ。
「うん。」
と私はあいまいな返事をしてから、私たちは大木ノ橋を渡った交差点で別れた。
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