REGRET
13
「菫ー!こっちこっち!」
「菫ちゃ〜ん!ここ塗るね?」
「凛ちゃんそこは塗っちゃだめだよ。」
「えー、もう塗っちゃったじゃないか〜!」
「最初からだね...。」
「えーーーー>−<」
教室が華やかになり、いつもとは違う。そう、来週は文化祭なのだ。
「もー、また最初からとか、つら〜!」
「まぁ、まだ後1週間あるからいいんじゃない?」
「うん...。がんばろう...。」
菫、希、凛の3人は廊下の装飾をする担当だった。
「それにしてもなんでこんな重要な仕事を不器用の私がやるの〜?」
「まぁ...ね。」
「菫ちゃんと希ちゃんは器用だからいいけど〜!」
「あはは...。」
人が来るかどうかが決まる廊下の装飾は重要なのである。
「凛!手が動いてないよ!動かして動かして!」
「希ちゃんの悪魔め〜<ー−ー>」
凛は渋々手を動かし始めた。
「おー、3人ともやってるじゃん〜!」
「拓海!それに空も〜!」
菫は空という言葉に反応してしまった。
「このクラスは何するの〜?」
「なんか運動部が多いから、ミニスポーツみたいなやつ〜!」
「なんか楽しそう!絶対行くからよろしくな!!な、空!」
菫は空の反応が気になった。
「行くよ!」
空はうれしそうに答えた。
菫は空が行くって言うことは知っていたのに、なんかうれしかった。
「3組は何をやるの〜?」
「3組はお化け屋敷やるよ〜!希ちゃんも菫ちゃんも来てよ!」
「行きたいんだけど...。」
希は菫の方を伺った。菫は体が震え上がっていた。
「菫ちゃんお化け屋敷だめなの〜?」
「うん。ちょっと苦手で...。」
「大丈夫〜!私も希ちゃんもいるし〜!」
凛は菫を励ました。
「そうだよ!俺らもフォローするから〜!な、空!」
「...。」
空は菫の姿に気を取られていた。
「空さ〜ん?」
「え?あ、うん。」
空は座っていた菫のところに行き、同じ目線になるところまでしゃがんだ。
「大丈夫だよ!」
「え...。」
菫は空の声が天使のように聞こえた。
「大丈夫!」
空は笑顔で菫を見つめた。
「うん...。」
菫も空を見つめた。
「顔が引きつってるよ。」
空は泣き出しそうな菫のほっぺたを人差し指でつついた。
菫は空のおかげで笑顔を取り戻した。
「私、行くよ。」
みんな笑顔で受け止めた。
「ってことで、そろそろ戻りますか〜!行くぞ空!」
「はいよー!」
『ばいばーい』
2人はクラスに戻って行った。

なんでだろう。ほっぺたをまだ触られている感覚が残っている。
「菫ちゃん〜!」
「...。」
「菫ちゃ〜ん?」
「あっ。」
「絵の具の水変えに行くよ〜!」
「うん。」
また空くんのことでぼーっとしてしまった。だめだと分かっているのに。
「ねぇ、菫ちゃん!」
「ん?」
「今でも空のこと好き?」
「え...。」
「私は空と菫ちゃん合うと思うなぁ〜!」
「や、でもね...。」
私は好きだということを諦めたとは言えなかった。逆に凛ちゃんの前で空くんのことが好きだとも言えない。
「菫さん、久しぶり!」
後ろから神田が来ていた。
「あ、うん。久しぶり。」
「菫さんたちは何やるの?」
「ミニスポーツってやつだよ。よかったら来てね。」
「うん!絶対行くから!じゃあ俺のところにも来てね!じゃあ、また!」
「うん。ばいばい。」
あれから神田くんとは会っていなかった。思ったよりも普通に話すことができた。
「ねぇ、菫ちゃん、神田知り合い?」
「え?」
そうだ、まだ凛ちゃんには私たちが知り合いって言うことは知らないんだ。
「うん。前にいろいろあって知り合いになったの。」
「ん?なんか言われた?」
「え...。や、別に普通にあいさつした程度かな。」
私は嘘をついた。この場で凛ちゃんには言い出せない。
「そっか!」
「じゃあ、そろそろ行こ。」
菫は凛を見ることができず、すぐにその場から離れた。凛はいつもとは違う菫にすぐに気がついた。
菫ちゃん...。
凛は後ろから菫の背中を叩いた。
「ちょ...。」
菫はいきおいでバケツをひっくり返しそうになった。
「凛ちゃんか。危ないよ。」
「ごめんごめん〜!」
凛は菫が笑顔に戻ったことを感じた。
「菫ちゃん!」
「ん?」
「私のことは心配しないで自分の幸せだけ考えてね〜!」
「え...?」
私は凛ちゃんに心を操られているようだった。でも私は凛ちゃんの笑い続ける顔を見てまたも言い出すことができなかった。
私の幸せ...。何がなんだろう...。何が幸せなんだろう...。
菫は自分の幸せを今すぐに見つけることができなかった。
私の幸せ...。

「ねぇ希。」
「ん?」
「希の幸せって感じるときって何?」
「ん?そうだなぁ...。ふかふかの枕とベットでぐっすりと寝れる時かな!」
期待していた解答と少しずれていた。
「でも、急にどうした?」
「や、さっき凛ちゃんが、自分の幸せ考えろって言ってきたの。」
「なるほど...。で、菫はなんだと思うの?」
「考えてはいるけど...。思いつかなくてさ。」
「なるほど。でも思いつかないことが今の幸せだってことかもね!」
思いつかないことが今の幸せ。今の私自身が幸せってことかな?
「なんか分かるよで、分からないような。」
「いいの!そのうち分かるよ!」
菫は希の言っていることが理解できそうでできなかった。

菫は家に帰ってからも考え続けた。机でヘッドホンでお気に入りの音楽をかけて考えた。それでも答えはいっこうに見つかることはなかった...。

「おはよー!」
「おはよー。」
今日は土曜日だが文化祭の準備を行った。
「今日凛もくるって言ってなかったっけ?」
「昨日はくるよって言ってたけど...。」
1時間経っても凛は来なかった。
「そう言えばさ菫の好きなガールズバンドの人たち新曲出したよね!」
「そうそう♪でも、まだ聞いてないんだ。」
希はポケットからiPodを取り出しイヤホンを片耳菫に渡し聞いた。
「これいいでしょ?」
「うん♪」
2人は音楽を聞いたまま絵を塗った。

「はぁぁぁぁ...。遅れてごめん>_<」
「あー、凛ちゃん。おはよう?」
もう少しでお昼の時間だった。
「何聞いてるの〜?」
菫は凛にイヤホンを渡した。
「あ、これ...。」
「知ってる?」
「えっと...誰かが聞いてたよ〜な?誰だっけ?」
凛はかすかにこの曲を覚えていた。
「うーす!お疲れー!」
拓海と空が登場した。
「なになに?みんなで何聞いてるの?」
「あ、ちょっ!」
拓海は凛からイヤホンを奪った。
「あっ、これって...空!」
拓海が空にイヤホンを渡した。
「あーこの曲俺も好きなやつだ!」
「え?本当?」
菫は興味が合う人がいてうれしそうだった。
「うん!試合前いつも聞いてる!
「うん。私も試合前いつも聞いてるの♪ なんか元気でるよね。」
「そうそう!どんな時でもできる気がしちゃうよね!」
空くんの趣味がまた1つ分かった。
「あー、思い出した〜!この曲聞いてたの空だ!」
「えっ?なんで凛が知ってるの?」
「こないだ試合前イヤホンしたまま余韻に浸りすぎてミーティング遅れそうになったじゃん!あの時気になって勝手に聞いちゃった〜!」
凛は照れくさそうに言った。空はこんな凛に何も言えずに苦笑だった。
「今度アルバム出るじゃんか!菫さんは買う?」
「うん。もちろん♪」
「またそのやつ聞かせて!」
「うん。分かった。」
空くんから頼まれた。早くアルバムが出て欲しい。
「まぁ、それよりお昼ご飯食べよ〜!さっき買い出しのついでにたい焼き買って来たから!」
「さすが拓海!太っ腹〜!」
6組の教室の隅でお弁当を食べることにした。
「じゃあ好きなの取ってって〜!」
「やった!これいただきます〜!」
凛が取ったのはメロン焼き。たい焼きの表面が鱗のようにメロン生地になり、中にメロンクリームが入っている。メロンパンとなんら変わりがなかった。でも凛はそれが大好きなのであった。
「菫ちゃんと希ちゃんはどれのする?」
「んー、私はチーズがいい!」
希はチーズを選んだ。
「私はクリームをもらいます。」
菫は最初からクリームを選んでいた。
「あ、菫ちゃんやっぱりクリームなんだ!」
「え?欲しかった?」
「違うよ!空が菫ちゃんはクリームが好きそうって言ってたから!」
「え?本当に?」
どうしてだろう。空くんにクリームが好きなんて言ったことないのに。
「よかった!なんかクリームが好きそうだなって!ってか俺もクリームが好きだからもしかしたら趣味合うかなって...。」
「え...。」
そう言われてみると空くんと私は趣味が合う時がよくある。
余った2つは拓海があんこ。空がチョコレートになった。
『いただきまーす!』
みんなで食べ始めた。菫もひとかじりした。
おいしい。そーだ。
菫はたい焼きを半分に裂いた。
「はい。」
「え?いいの?」
菫はかじっていない尾側を空にあげた。
「じゃあ...。」
空も自分のたい焼きを半分に裂いて食べていない尾側を菫に渡した。
「ありがとう。」
菫は空にもらった尾側を自分の持っていた頭側にくっつけた。
「見て。1匹になったよ。」
私は当たり前のことなのにうれしかった。空くんの半分と私の半分がくっつくことができて...。

今、この時、この瞬間が私の幸せ。
そうなのかのしれない...。

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