REGRET
15
今日は2学期最終日。あの日から空くんとも神田くんとも話せていない。
「希ちゃ〜ん!負けないからね〜!」
「私も絶対負けないよ!」
今日はマラソン大会。なぜかこの学校は2学期の最終日に1年生だけあるのだ。
「菫も今日はライバルだからね!」
「...。」
「菫?」
「え?あぁ...。私も負けないよ。」
「よーし!」
私は2人のことを考えすぎてしまう。

”よーい、スタート”
女子からスタートした。約150人ぐらいの人たちがいっせいに飛び出した。お互いライバル関係の希と凛はスタートと同時に勢いよく飛び出した。
スタートをでお遅れた菫は後ろの集団になってしまった。
「あの2人は速いなぁ〜!菫ちゃんは出遅れたなぁ〜!」
「...。」
「空!今日は負けないからな!」
「...。」
「おいっ!」
「あ、うん...。」
拓海は最近元気がない空を心配そうに見つめた。

”よーいスタート”
女子がスタートしてから10分後に男子がスタートした。最初に飛び出した2人は拓海と神田だった。2人は先頭を譲らなかった。毎年速い人でも40分ぐらいかかるはずなのに彼らのペースは30分を切るぐらいの速さだった。空はスタートで出遅れて最下位スタートだった。

菫の頭の中は空と神田でいっぱいだった。
『大丈夫、このまま行こ!』
『俺と付き合ってよ。』
『私のことは心配しないで自分の幸せだけ考えてね〜!』
「どーすりゃいいの!」
走りながら急に菫は大声をあげてしまった。
「あ...。」
急に大声で叫んだため周りの人がいっせいに見た。菫はそれが恥ずかしくなり全力で走った。ただただ自分にいらだち...。
「あっ。」
菫は道路から歩道に差し掛かる段差でつまずいた。
「痛った...。」
膝をすりむき、さらに足首をくじいてしまった。
「大丈夫ですかー?」
周りの人たち心配そうに声をかけた。
「あー、はい大丈夫です。どうぞ先に行っていてください。」
みんなが行った後、菫は立って走ろうと1歩踏み出した。
「痛い...。」
菫は足首をくじいて、走ることができなかった。
菫はその場に座り込んだんでしまった。いつも助けてくれる仲間もいない。さらには女子はみんな行き、菫は最下位だった。菫は焦った。走り始めてから10分しか経ってないから学校に戻った方が早かった。菫は再び立ち上がり足を引きずりながら学校へ向かった。菫は痛いのを我慢して歯を食いしばって歩き続けた。少し歩いたところで前方から男子集団が来た。菫は足を引きずっている姿見られたくないので急いで草むらに身を隠した。
男子集団の先頭は拓海と神田だった。その後ろからバイソンの群れのように大きな足音を立てて走って行った。
菫はもう男子が来ないことを確認すると立ち再び歩き始めた。
一歩一歩痛みを堪えながら...。
その時前方から、群れからはぐれた男子が1人走って来た。菫はあわてて隠れようとしたが、近くにいい隠れ場がなかった。菫はとっさに枝にような細い木に隠れた。明らかに体がはみ出ているためすぐに男子は気づいた。菫はあわてて顔を隠した。
「ねぇ?」
菫は自分の負けを認め、恐る恐る顔を男子の方に向けた。
「菫さん...。」
その男子は空だった。空は菫だと分かり一瞬戸惑った。
「あ...。」
菫も空だと分かり、戸惑った。
「菫さん大丈夫足?血が出てるけど。」
空は菫の膝に気がついた。
「あー、大丈夫大丈夫。空くんがんばってね。」
菫は空に見られたくなく、その場をすぐにでも離れたかった。
「あ...。」
菫はその場に倒れかけた...と思ったら菫の体を空が支えた。
「え...。」
菫と空の距離は縮まった。そしてお互いがお互いを見つめ合った。菫の顔が空の瞳に映った。同じく空の顔が菫の瞳に映った。時が止まったように2人は見つめ合った。
「ほら!」
空は背を向けた。
「え...。いや、歩けるって...。」
菫は立とうとしたが、やはりもう限界だった。
「気にしないでいいよ!」
「でも私、重いし...。それに血がついちゃうよ。」
「そんなのどうでもいい。菫さんの足の方が心配だよ!」
「え...。」
「さぁ!」
私は空くんの優しさに甘えてしまった。空くんの背中は大きかった。

「ねぇ、空くん。文化祭の日体育館に行けなくてごめんね...。」
「ん?あぁ、大丈夫だよ...。」
空は自分も行っていないことを言えなかった。あの日起きたことも...。
「LIVE楽しかった?」
「あ、うん。楽しかった!」
ってことは、あのピーチティーは空くんではなかったのかな?たまたまなのかな...?

だんだんと学校が見えてきた。
「今年ももう終わりか!」
「そうかな?まだ後2週間あるよ?しかもクリスマスに、年越しも。」
「確かにね。」
「私、今年は大吉だったんだ。」
「本当に?いい年になった?」
「えっと...。」
私は思い出した。おみくじに書いてあったことを...。
”他人に左右されず、自分の意志を貫け。必ず幸運がやってくる。”
「まだ...かな?ってかもうないかも。」
「そっか...。後2週間であるといいな!」
「うん...。」

2人は保健室についた。
「失礼します。」
中には誰もいなかった。
「いないな...。よし!」
空は菫を椅子に降ろした。そして机の中をあさりだし消毒液やガーゼ、湿布に包帯など使えそうなものを取り出した。
「痛っ。」
膝の傷口に消毒液を垂らした。
「我慢、我慢!」
やはり空くんは安心させてくれた。
その後もガーゼをつけ、足首には湿布を貼って包帯で固定した。
「なんか、空くんお母さんみたい。」
「え?俺、こういうのよくやるからさ!」
その時保健室の先生が戻って来た。
「あら?怪我?ってもう処置してあるやん〜!」
「あ、あの方にやってもらいました。」
先生は外を見ていた空の方へ歩いて行った。
「あんたやるやん〜!って、空やんけ〜!」
「あ、どーも。」
先生は若い女の人で生徒とフレンドリーに接していて知ってる人も多かった。
外では男子の先頭がゴールして来ていた。そのうち女子の先頭集団もゴールして来た。
「先生、俺そろそろ行きますわ!」
「え〜?せっかくやしいてやりなよ〜!」
歩き始めた空は立ち止まった。
「や、私は全然大丈夫ですよ。ありがとう空くん。」
空は菫の方へ近づいた。
「早く良くなれよ!それと...。」
「ん?」
「えっと...。」
「え?」
「...。またこけるなよ。」
「む。」
空は軽く菫の頭を叩くと出て行ってしまった。

「ねぇ、あなた!彼氏いるん〜?」
「え?」
急に先生が聞いてきて驚いた。でも菫はこの先生に相談することに決めた。
「こないだある人から告白されたんです。返事はまだしてないんですけど...。」
「え?なんでなん?」
「えっと...。嫌いじゃないんですけど、好きではないっていうか...好きとは違うっていうか...。他の誰かが邪魔してくるっていうか...。」
「ははは!!!」
先生はいきなり笑い出した。
「え?何か変でした?」
「いや、なんか空と似てるなって思ってな〜!」
「え?空くん?」
「そう!先週保健室に来た時に言ってたの〜!」
先生は続けた...

”『空ってさ〜彼女できたん??』
『え?』
『高校入ってそろそろ1年も経とうとしてるんだからできてもいいやん〜!』
『や、俺は背負っていかないといけない人がいるんで...。』
空は先生の軽く聞いた質問に真剣に答えた。
『あ、ごめん。触れちゃいけないやつやった?』
『でも...背負いきれなくなってきて...俺の行くてを邪魔するやつがいて...でもその人には彼氏がいるんで...。あ、すいません。』”

「って言ってたんよ〜!」
「そうなんですか。」
「ま、自分のことだから自分で決めんとな〜!」
先生は出て行こうとした時立ち止まった。
「後、最後にこう言ってた。」

”『その人には彼氏がいても俺はその人が困っていると助けたいんです。ほっとけないんです。』”

「ってね。」
先生は出て行った。

「はぁはぁ...。お前なかなかまだやるじゃねーかよ。」
「はぁはぁ...。さすがに勝てなくなったな...。」
「どうなのお前は?」
「は?」
「サッカーから離れた生活は!」
「ん?わかんない。まぁ、楽しいんじゃね?」
「そっか!じゃあ、もーだめだな!」
「え?何が?」
神田は拓海に問いかけた。
「お〜い、拓海〜!」
「はぁ〜?」
「ちょっと来て〜!」
「はいよ〜!」
拓海は凛に呼ばれた。再び視線を神田に戻した。
「お前とまたサッカーしたかったぜ〜!」
「え...。」
「ってことで!じゃあなっ!」
拓海は凛の方へ向かった。
「どうしたの?」
「3人だけだけど、写真撮ろ〜!」
「お、いいね!」

ばーか...。俺だってやりたいに決まってるだろ...。
神田は拓海を見つめた。

玄関から空が神田の方に向かって歩いてきた。
「おい!保健室に菫さんがいるぞ!」
「え?植草さんが?どうして?ってかなんで俺に?」
「は?なんで俺に?」
空は神田の胸元をつかんだ。空の顔は怒りに変わった。去年の病室にいた時と同じ顔だった。
「てめー...。覚悟がないんだった諦めろ!」
「...。」
「覚悟がねぇなら諦めろっつってんだろ!」
空は神田に今にも殴りかかりそうだった。
「守りてーんじゃねーのかよ。幸せにしたいんじゃねーのかよ。」
「...。」
「そんなんで...。そんなんで...。」
空のつかむ力が強くなった。
「そんなんで俺に挑むな...。」
「え...。お前...。」
「早く行け...。」
空は神田を玄関へ向かって押した。神田は空を振り返ることなく保健室へ走って行った。
空は人気のいないところに歩いて行った。

「植草さん!」
「あ、神田くん。」
あわてて神田が入って来た。
「大丈夫?空に手伝ってもらったって。」
「え?あ、そうなの。」
「ってか、何で俺は気づかなかったんだろ...。」
「ん?」
「何で空には気づいて、俺には気づかないのかなって...。」
「それは...。」
「それは俺に覚悟がないからだよな...。悔しいぜ...。」
菫は草むらに隠れていたことは言わなかった。
「そんなことないよ。神田くんはしっかり決断できて、覚悟はあったと思うよ?」
「え?ありがとう...。」
菫は決意した。

「神田くん聞いて欲しいことがあるの。」
< 15 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop