REGRET
19
3人は夏祭りの時に花火を見た場所に来た。
「菫、うまくいくといいな!」
希は湖に向かってつぶやいた。
「希ちゃん!」
「ん?」
希の横に凛が来た。
「菫ちゃんたちが付き合ってなかったのって知ってたの?」
「あ、うん。うすうす気づいてたよ!」
「じゃあ、今日って...。」
「そう!だから今日5人集まろうって言ったの!」
「やっぱり〜!」
「最初はね、私も迷ってたの!菫はいつも凛の気持ちを考え続けていたから。でも違った。今日じゃないとだめだって思った!」
「希ちゃん...。」
「凛も同じ気持ちだったでしょ?」
「うん!」
希と凛は笑いあった。
「希ちゃんってすげーよな!」
「え?」
「菫ちゃんの気持ち読み取れて!俺なんて空とずっといたつもりなのに全く気づかなかったよ。」
「でもうすうすは気づいてたでしょ?」
「あ、まぁそれはちょっと元気がないかなって思う時はあったけど、気のせいかと思った。」
「それだよ!」
「え?」
「それが友達ってやつ!いつも一緒にいれば少しの変化も自然と気づいてくる。私は菫と昔からずっと一緒だった。お互いがお互いを分かり合っている。嘘なんてもうつけないよ!拓海くんもそうでしょ?」
「そーかもな!俺らも自然と気づいているのかもな!」
「この5人もいつかそうなるといいな...。」
「希ちゃん...。来るよ!絶対!まだ1年!始まったばっかりだよ!」
拓海は誇らしげに語った。
「拓海のくせにくさいわ~!」
「おい凛!ちゃかすな!」
3人は笑った。この大切な高校生活の1秒1秒を感じながら。

菫と空はお墓に来た。
「空くん、やっぱり怖いよ...。
菫は行きたいと言ったものの、やはり暗闇はが怖かった。
「大丈夫だよ!お化け屋敷の時も行けたじゃん!」
「あれは...。」
あれは空くんがいたからと言おうとしたが、今日もいる。しかも手をつないでくれている。
菫に安心感が出ていた。
「行こっ!」
「うん。」
2人は階段を上がっていった。

「きゃっ。」
暗闇の中に物影が現れた。菫は空の背後に身を隠した。
「先輩...。」
先輩?
そこにいたのは菫が前に1度だけ会ったことのある先輩だった。
「先輩どうしてですか?」
「おいおい!どいしてって、俺はあいつの兄妹だぞ?」
そう。先輩は植草すみれの兄だった。
「お前が最近行かないせいで花に水もあげてなかったぜ。」
「すいません。明日から毎日来ます。」
「空、毎日はもう無理だろ。」
「え?どうしてですか?」
「お前の守るべき相手は変わってるだろ?」
「それは...。」
空は菫を見た後、否定することはできなかった。
「もうやめろ!お前はもう毎日来るのが辛いだろ?お前は自分の心が変わりつついることを自分自身で感じつつあるはずだ。でもすみれが死んだのは自分の責任だと責め続けている自分がいる。お前にはこれからも毎日その葛藤した心を耐え続ける自信があるのか?」
「それは...。」
「空、そろそろ自分の気持ちに正直になれ。あいつもお前にはそんな気持ちを求めていないはずだ。分かるだろお前も。」
空の目に涙がこもった。

空はすみれのお墓の前で立ち尽くした。
「お前のポケットの中のおまもりを出してみろ。」
「え?」
「あいつが渡すはずだったおまもり。いつもポケットに入ってるだろ?」
空はポケットからすみれからの最後の贈り物を出した。
「中を見てみろよ。」
空は紐をほどき、中を覗いた。中には何重にも折った1枚の紙が出てきた。空は紙を広げた。それは手紙だった。

”空へ
いつもサッカーお疲れ様!
毎日空くんのサッカーをする姿を見ていると私も元気をもらえます。
この手紙を見る頃には優勝してるのかな?それとも大人かな?
私はあえてこの手紙のことは言いません。たとえ離れ離れになっても、空が手紙を見た時に少しでも私のことを思い出してくれたらうれしいです。
幸せになってね空!
植草すみれ”

「う”...う”あぁ...。」
空は手紙を読み大声で泣き出した。菫もしゃがみこみ空の肩をさすった。
「家でもそうだった。家でもあいつはお前と会うことよりもお前が大会で優勝することを願っていたよ。」
「う”...う”あぁ...。」
空は顔を伏せた。
「そして願いは叶った。高校に入って優勝できた。しかもお前の決勝ゴールで。あいつはすげー喜こんでいると思うよ。そして今見たあいつの最後の願いを叶えてやれっ!」
先輩は去っていった。

「すみれ...。」
空が話し出した。
「すみれ、ごめんな...。何ひとつ気づいてやれなくて...。今までありがとう...そして...。さようなら。」

2人はお墓を後にした。
「菫さんありがとう。」
「え?私は全然なにも。」
「行ってよかった!自分の揺らいでいた心が定まったよ!」
「それはよかった。」
「ねぇ、菫さん。」
空は立ち止まった。そして続けた。
「俺気づくの遅かったな。もっと前から本当は気づいていたのに...。菫さん、好きだよ。」
菫は振り返った。
「俺と付き合ってください。」
空は菫に自分の気持ちをぶつけた。
「空くん...私も空くんのことが好きだよ。」
菫も空にずっと伝えたかったことが伝えられた。
「よかった!やっぱりこれのおかげかな!」
空はポケットから神田からもらったおまもりを出した。
「え?何で持ってるの?」
「こういうのは大会前に欲しかったよー!」
「ちょっと!」
菫は恥ずかしくなりおまもりを取ろうとした。
「だめだよ。これは俺の大事なものなんだから。」
空はおまもりを高く上げた。
「それでもだめっ!」
菫は無理やり取ろうと手を伸ばした。背伸びした勢いで倒れかかってしまった。空の元へ。
「あ...ごめ...。」
菫はあわてて離れようとしたが、空が抱きしめた。
すみれが最後に願ったことを叶えた。そして菫は気づいた。
”私の本当の幸せに...。最初から分かっていたのかも。”
その瞬間花火が上がった。
空くんと一緒に年を越すことができた。
昨年の最後の最後で大吉が花を開いた。
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