REGRET

2

先週は入学式だったため、今日から本格的な学校生活の始まりだった。

今日も希と一緒に正門をくぐって教室まで行った。するとまだ登校時間まで20分もあるのにほとんどの生徒はもう来ていた。
私と希は自分の席に座った。8時25分になると先生が入ってきた。
「今日の出席をとる。いない人ー。」
いない人が返事をするわけもなく、クラスで失笑が起きた。
先生は生徒を笑わせたことで少し自慢げな顔をしていた。
今日の1時間目は学校全体での始業式である。
体育館に入ると1年生から3年生までの全員が集まっていた。
入学式と同様に校長先生が話した後に校歌が流れた。しかし今日の校歌は吹奏楽部の音に合わせて2、3年生が歌っていた。男子から響く低音と、女子から響く高音とがうまく融合されていた。
所々で男子の数人が音をはずしていたが...。
今日の校歌はとても長く感じた。

始業式が終わり教室に戻ると、次は掃除が行われた。
私と希は教室の雑巾がけ役だった。水道に行き雑巾を水で濡らした。
「掃除ってさ!性格が出るよね~。」
希が床を雑巾がけしながら言ってきた。
私も周りを見渡してみると、言われてみれば、しっかりやる人と友達同士でしゃべっている人たち。
やっている人の中を見ても、隅々まで丁寧にやる人とやっつけ仕事にやる人たち。
私は今までそんなこと気にしたこともなかった。
「希ってよく見てるね~。」
「まあ、掃除だけってことはないけど!」
「だけじゃない?」
「うん。話しているときとか、普段の様子とかからもわかるよ。」
そう言われてみれば、入学式のとき私が男子たちに話しかけられたとき、希が助けてくれた。
それだけじゃない。
中学の時もテニスの練習試合中、私は体調が悪かったことを隠していた。でも希は、私があまり動かないように立ち回ってくれていたことを思い出した。
すべて気付かれていたんだ。
「ありがとう!」
希は私の突然の言葉に不思議そうな顔をして微笑んでいた。
希は私にとっていちばん最高のパートナーなんだ。
掃除も終わり今日の学校も終了。この後は部活動を自由見学できる日だった。
「マネージャー、よろしくお願いします。」
私は何も言えないままおびえていた。
「ごめんなさい。私たちはテニスやるので。」
希がいてくれてよかった。
右のほうで女子テニス部が歓迎していた。ものすごく優しそうで美人な先輩たちが多かった。
「すいませーん。私たちテニス部に入りたいんですけど。」
希が何の躊躇もなく言うと、1人の先輩が案内してくれた。
「君たちの名前聞いてもいい?」
歩いていると先輩が話しかけてきた。
「私は佐藤希です。」
「わたしは、植草菫です。」
希に続いて私も言った。
「よろしくね!」
声も可愛く、顔も可愛い。おまけに明るく優しい。パーフェクトな先輩だ。
「希と菫は同じクラスなの?」
「そうです。同じクラスで同じ中学から来ました。あ、後、中学の時ペアで組んでました。」
先輩だろうとどんどんしゃべる希に感心した。

テニスコートに到着すると、まだ誰も来ていなかった。
「そーだ!ちょっと待ってて!」
そういうと先輩は部室のほうに走って行った。
「今の先輩めっちゃ話しやすくて優しいね。」
「うん、優しいね。」
希も私と同じことを思っていた。
そうしているうちに先輩が戻ってきた。
「はいこれ。今時間あるから勝負しよ!」
そう言って私たちにラケットを渡してきた。
えっ。いきなり。と思ったけど、やっぱりうれしかった。
私たちは先にどちらがコートに入るかを迷っていた。
「早くしてよ!2人でかかってきなさい!」
先輩はよほど自信があるのか、2対1でやることになった。
「いくよ!」
先輩からのサーブが来た。
「えっ...。」
2人は先輩の枠ぎりぎりのサービスエースに驚愕した。スピードもコントロールも抜群。
「どーしたの。受験勉強で体がなまけてるんじゃないの?もう1回行くよ。」
2人は再び気持ちを入れなおした。
「えっ...。」
2人は1歩も動くこともできず、ただその場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
先ほどのサーブがまぐれだと思ったのに、そのサーブが2本続けてきた。
「もー、もう1球。いくよ。」
その時、さっき勧誘していた人たちが戻ってきた。
「あー、やってるやってる。そんな大人げないことして後輩が自信なくしたらどーすんのさ。」
1人の先輩がそう言ったが、すでに手遅れだ。
「変わって。私が相手するから。」
もう1人の先輩がそう言って、サーブを打ってきた。
あれ、今回の先輩のボールはそこまで怖くないボールだった。
私はそのボールを打ち返す。先輩もそれを打ち返した。
私と先輩のラリーが数本続くと、前衛の希が強い打球を打ちポイントを取った。
「なかなかやるじゃない。毎日練習してやれば強くなれるよ。ね!」
先ほどのうまかった先輩の表情が急に険しくなり部室に行ってしまった。
私たちはテニスコートの横にある石段に座った。
「ごめんね。なんか重い空気にしちゃって。」
と、部長らし先輩が語りだした。
「1年生の頃あの子はここら辺の地区では最強と言われていたペアだったんだよね。私たちとは全く次元が違くて、だれも勝てなかったんだ。だけどある時を境に彼女たちの絆に亀裂が入ってしまった。そして1人はテニスをやめっちゃったんだ。」
私たちは衝撃の事実を聞いて返す言葉がなかった。
「だから君たち2人を見て羨ましかったんじゃないかな。」
そう先輩が笑顔で言ってきた。
「さあ、部活始めるよ~。」
そう言って先輩たちはテニスコートから出て行った。
私はまだ驚きが静まらなかった。
「菫。私たちは絶対に先輩たちを越えよう。2人で!」
希の眼は何の迷いもなく真剣だった。
「うん。2人で越えよう。」
私も希の迫力に押されて決意した。
「いいコンビだよ。」
後方かうまい先輩が来た。
「君たちには迷いがない。頑張れ。」
そう言うと、先輩は練習に行ってしまった。
「何か聞かれちゃってたね。」
「アハハハ...。」
私たちの決意を聞かれてしまった。
私たちは気持ちを切り替えて練習を見た。
ウォーミングアップ、ストレッチ、ボールの打ち合い、サーブ、アタック。
どれも中学の時の練習とさほど変わらなかった。

「こんにちは!」
1人の先輩があいさつをしたら、続けてみんな挨拶をした。その先には1人の女の先生が立っていた。
どうやらこの人が女子テニス部の顧問らしい。
挨拶を済ますと、先輩たちは練習を再開した。
私たちが先生のほうを見ていると、視線に気づき近づいてきた。
私は思わぬ緊張感に包まれた。
「こんにちは。君らが新入生かしら。」
「そうです。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
私は希の後に続いて言った。
「仲がよさそうね。あ、そーだ。君たちが入るとしたら、君たち2人で将来は部長をやってね。」
2人は驚いた。えっ..私が部長...。
「わかりました。」
希はすぐに引き受けてしまった。
「じゃ、よろしく頼むわね。」
そう言って先生はコートのほうへ行ってしまった。
「希...?」
私は本当に引き受けるかどうか聞きたかった。
「大丈夫だよ。だって私たち本気なんだし。」
そうだ。私たちはさっき決意したんだ。
「私たちが部長をやり、仲間を引っ張って、さっきの決意を形ある姿にする。どうかな?」
「うん。いいと思う。」
希の自信に満ち溢れた顔に、私も自信が込み上げてきた。

今日の練習が終わった。
「ばいばーい。」
私と希はお互いに自分の家へ帰った。
私は1人になると、今日会ったことを振り返りながら帰った。
いろんなことを思い出しても結局は頑張ることにたどりついていた。
きっと希も同じなんだろう。
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