REGRET

7

そして今日が待ちに待った花火大会当日。雨も降ってないし花火大会には絶好の天気である。
私は先日お母さんに頼んで買ってもらった紫色の菫が描かれている浴衣を着て行った。時間を見るとまだ3時である。行きたすぎて無意識のうちに着てしまった。
「お母さーん。これおかしくない?」
「だから大丈夫だって!何回目なの?」
私は落ち着いていれなくて何度も何度も聞いてしまった。
「今日は私にとって重要な日なの。」
「え?希ちゃんと行くんじゃないの〜?」
「希もいるけど、クラスメイトとかもみんなで行くの。」
「そうかい、そうかい。楽しんできなね〜」
そう言うとお母さんは2階に洗濯物を取り寄せに行ってしまった。
結局私は時間が来るまでぼーっとテレビを見ていた。

”ピンポーン”
「菫〜。希ちゃん来たわよ〜!」
いよいよきたのだと私は急いで玄関に向かった。
「えっ、菫それで行くの?」
「あっ...。」
菫は焦りすぎて、いつも学校に履いていくローファーを履いていた。
「あははははは!!だっさい!」
「お母さん。」
「確かにー!」
「希まで!」
私は2人にバカにされて少し恥ずかしかった。
「もー。行ってくるねー。」
「行ってら...あっ、そうそう菫!ちょっと待ってて!」
「えー、なんでー?」
そう言うとお母さんは台所の方へ行ってしまった。
「ごめんね、希。」
「いよいよ!まだ時間あるし!」
それにしてもお母さんがなかなか来ない。
「お母さーん。まだー?」
「はいはい。お待たせ〜!」
お母さんは1通の封筒を持ってきた。
「何それ?」
「あんた今日重要な日なんやろ?これ持ってきな〜!」
私は封筒の中を覗いた。
えっ...。
私は中を見て驚いた。
「お母さんこんなにいいの?」
中には5000円のお金が入っていた。
「ほら、希ちゃん待たせてるんだから、行きな、行きな!」
「お母さん...。ありがとう。行ってきます!」
お母さんは菫があんなにもうれしそうにしている姿を見るのが初めてであったのだ。

「菫!その浴衣めっちゃかわいいじゃん!」
「あっ、そーお?ありがとう!」
「しかも菫入ってるし!」
さすが、希は気がついくのが早かった。
「あ、分かる?希のもかわいいよ。」
希は黄色の浴衣を着ていた。希は黄色のような少し派手な色がとても似合う。
そう言いながら歩いているとだんだんと花火大会の人たちで混んできた。
待ち合わせの公園にも人が多くて、どこにいるか分からなかった。
「希、どうしよう?」
「まぁ、まだ時間じゃないしとりあえず座って待ってよっか!」
2人は近くにちょうど空いていたベンチに座って待つことにした。待ち合わせの時間になっても姿が見えなかった。
「こないね。」
「うん...。電話しよっか!」
そのとき公園の入り口付近で周りをキョロキョロするTシャツで半ズボンのいかにも夏らし格好をした人がいた。
「希、あれ拓海くんっぽくない?」
そう言うと拓海も気づいたらしくこっちに向かってきた。
「おー、やっとみ見つけた〜!けど...。」
「けど、どうしたの?」
「や、なんでもないよ..。なんでも〜。あはは、あはは...。」
いつもよりも拓海の様子がおかしかった。
「それよりよ〜。あいつら遅くね??」
明らかに様子がおかしい。
「まぁ、とりあえず探して..やーるか..。」
やっぱり何かが違う。
「菫、菫、何か拓海くんおかしくね?」
「確かにいつもと違うような...。」
2人は拓海に聞こえないような小さな声でいつもと様子が違うことを話し合った。
「2人ともどーした..のかね?」
「や...別に...あはー...。」
「あっ、凛たちが来たよ!」
「ギクッ!!!」
拓海はとっさに2人の後ろに隠れた。
空くんも来た。私の鼓動が今日1番早い。近づいて来た。
「2人ともごめんよ。拓海探してるんだけどさ。見なかった...って...。」
「あー...。拓海くんならここに...。」
「あー、2人ともそこから動かないでよ...。」
拓海はばれてしまった。
「おい拓海!」
「ヒィ〜〜〜〜!」
「拓海くん?」
「...。ごめんなさい...。」
どうやら拓海は空と凛と一緒にいたはずなのにいつの間にか2人とはぐれたらしい。
「全くも〜!拓海バカすぎだら〜!」
凛は拓海に呆れた。
「まぁ、とりあえずみんな困らせたからお前全員分のジュースな!」
「え〜〜?空さん...。今日はオシャレでかっこいいですよ...。わかりました...。おごりますよ...。」
この3人は中学の時からこんな感じだったらしい。

「いっただきまーす〜!さすが拓海のおごり〜!おいしいね〜!」
「誰がおごっても味は変わらんわ...。あぁ...。財布が一気に寂しくなってしまったじゃないか...。」
「まぁまぁ、逆に考えればさ、みんなにおごれたんだよ??その勇敢な行動はかっこいいぞ〜!」
菫と希は凛のよくわからない説得に首を傾げた。
「そーだぞ拓海!お前最高にかっこいいぞ!」
「確かにそう言われてみれば!よーし!もう1本行きます〜!」
「ちょ、それはいいや。」
菫と希は拓海の単純さを改めて知ることになった。

「空!」
『こ、こんばんわ!』
空と拓海、凛はとっさにあいさつをした。
「2人でいちゃいちゃしてるのは気持ち悪いぞ〜。」
「柊馬先輩たちも...。ですよね?」
そこにいたのはサッカー部の先輩のキャプテンと柊馬だった。
「おい、てめえ!なめてんのか?」
キャプテンがガチ顏で拓海の胸ぐらをつかんだ。
「まぁ、落ち着けって〜!」
菫と希は男子の部活の上下関係の厳しさに目が点になった。
「お前ら、明日グランド10周な。」
「え?」
「は?少ないか?」
「や、大丈夫です...。」
「じゃあ、またな。」
『さ、さようなら。』
空は拓海の顔を見て怒気を訴えた。
「まぁ、君たちあいつはいつもあーだから、明日はやらなくてもいいよ!」
「え?いいんですか?」
キャプテンの言うことは柊馬だけは変えることができる。
「いいってことよ!」
「おい、柊馬!早くしろ!!」
「はいよ〜。ってことでな!」
『さようなら!』
2人は行ってしまった。
「はぁ...。1番会いたくない人に会ったな...。」
「凛ちゃん。あの先輩っていつもあんなんなの?」
「そーだよ。それであの先輩が過ぎ去ると必ず、空と拓海が...。あーなる。」
空と拓海は2人で喧嘩していた。
「希、私たちはテニスでよかったね。」
「うん...。確かに。」
「あれ先輩たちだ。」
向こうの方からテニス部の先輩たちがやってきた。
『こんにちわ』
『よ〜!』
「2人とも浴衣かわいいじゃん〜!」
「あ、ありがとうございます。先輩たちもかわいいですよ。」
「まぁね〜!んじゃばいばーい!」
『さようなら』
テニス部の先輩は行ってしまった。
「おい!空、拓海!今の見た??」
「見た見た!やばくね〜?」
「仲よすぎ!」
「俺らは唯一柊馬先輩だけだよ優しいのは...。」
3人はテニス部を見て羨ましがっていた。
「そーだ!みんなで金魚すくいしよ!」
「い〜ね!希ちゃんナイスアイディア〜!」

5人は金魚すくいの輪をもらうと金魚すくいを始めた。
案の定大ざっぱな凛と拓海は1匹もすくえずに輪が破れた。
「おい、拓海、それもう輪が破れてるよ〜?」
「や、この枠のところで...。」
「アホ!!やめろや〜!」
さすが拓海。としか言いようがなかった。
私も頑張ろうと思い金魚を探った。そして狙いを定めて金魚を追った。なかなかすばしっこい金魚だった。待て待て。
「あっ、ごめんなさい。」
「あー、菫さんか!取れた?」
「空くん。」
私が夢中になりすぎてぶつかった相手は空くんだった。
「すごいね空くん。」
空くんのボールには金魚が4匹もいた。私も負けないようにがんばろうと思うが、なかなか金魚が定まらなくて輪を水中に入れることができなかった。どうしよう。その時だった。
「えっ...?」
私の手を覆うように大きな手を重ねてきた。
「一緒に頑張ろう!」
空くんの手だった。今、空くんの手とつながっている。体がどんどん熱くなり倒れてしまいそうだった。
「さぁ、いくよ!!」
そして輪を水中に入れた。私の手は何も力を入れていない。ほとんど空くんが操っている。
「ねぇ、取れたよ?」
「....。」
「おーい?」
「あっ...。ほんとだ。ありがとう。」
私は空くんの熱気に押されて意識を失っていた。私のボールの中には他のどの金魚よりも価値の高い金魚が1匹いた。空くんと取った金魚。
「1匹かー。かわいそうだな!ほら俺の1匹!」
「えっ、ありがとう。」
さらに私のボールに空くんの取った金魚が入ってきた。私はボールから袋に移し替えてもらった。大切な2匹の金魚。

「希ちゃ〜ん!すげ〜!サンキュ!!」
「ありがとう希ちゃん〜!」
拓海と凛は希から4匹ずつもらったらしい。
ってことは希は?5匹?!
今日の金魚すくいの最多記録を出したらしい。
「希、昔からすごかったもんね。」
「そうそう金魚すくい得意なの!菫もあげよっか?」
「や、絶対にだめ。この2匹は私にとって大切な2匹なの。」
「あ!そっか!」
希はさっきの一連の行動を見ていたのだ。
「大切にしなね!」
「うん!!絶対大切にする!!」
空は菫を見続けた後、少しほほ笑んだ。

その後5人はいろいろな屋台を回った。そしていよいよ花火大会のスタートである。5人は見やすい川沿いのところへ行った。
”ドン!ヒュー...バーン!!!”
いよいよ花火がスタートした。
「きれいだね!」
『うん!』
その後も何発も打ち上げられた。
「これ、あれだな!この花火俺らみたいだな!!」
「え?意味わかんない〜!」
「凛には分かんねーだろうな〜!」
や、他のみんなも分かっていない様子である。
「1つ1つが全く違う花火!俺らも1人1人違った性格なんだよ!でもよ、いろんな花火見るけどさ。思うことは1つだろ?」
「ん〜?」
「みんなきれいだ!って思うじゃん!それだよ!!」
拓海がいい終わると急に空が笑った。
「拓海の言う通りかもな!」
5人は夏の夜空を輝かせる花火を見届けた。


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