キミに恋の残業を命ずる
まだ誰も来ない内に下の階に行くために、わたしと課長は勤務開始一時間前に部屋を出た。


非常階段を降りエレベーターで三階まで行って、特別開発課のフロアへ続く方のドアにそっと耳を当てる。

しんとしていて、物音がしない。

ロックを解除してそっと開けてみると、まだ誰もいなかった。


特別開発課から出ると、わたしはぺこりと頭を下げた。


「お世話になりました」

「いやいや、それはこちらのセリフだし。それを言うなら『よろしくおねがいします』の方が合ってるんじゃない?」


からかう言葉には答えず、わたしはこれ見よがしに特別開発課のカードキーを財布に慎重にしまって見せた。


「ではここで失礼します」

「総務部まで送っていくよ」

「いえ、けっこうです」


つんと踵をかえしてスタスタ歩き出すと、課長も遅れてついてきた。
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