キミに恋の残業を命ずる
「急に機嫌が悪くなったね」

「いえ。そんなことないですよ」

「ふぅん。今夜から来てくれるのかな」

「はい。上司の命令は絶対ですから」

「そう。じゃあ楽しみに待っているよ」

「冷蔵庫からっぽですよね。お買い物してから行くので、遅くなります」

「じゃ、退勤後に一緒に行く?」

「けっこうです」


エレベーター前にきて、呼び出しボタンを押そうとした。

けど


「やっぱり、ご機嫌ナナメだね」


押させないように、課長の手がボタンを覆った。


「どうしたの、急におへそ曲げちゃって」


面白がっている口ぶりだった。

「あなたのその人を食うようなチャラい感じに腹を立てているんですよ」と言ってやりたかったけど、ぐっとこらえた。


「別に、これが普通ですよ。わたし、朝は機嫌が悪くなるんです。あなたもこれから毎朝出勤するようになれば解かると思いますよ」


わたしなりの精一杯の皮肉だった。

けど課長はむしろもっと楽しそうに笑った。


「そっか、じゃあ俺も出勤したくなくてイラついたらキミに駄々をこねようかな。いいな、朝からキミを困らせるのも楽しそうだ」


またこの人はそういうことを…。

そんなことを言えばわたしが尻尾振ってなんでもいうこと聞くと思ってるんだろうか。

残念。
恋愛に疎い田舎娘とお思いでしょうけど、あなたの嘘はとっくに気づいているんですからね。
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