キミに恋の残業を命ずる
「そういえばわたし、肝心なことを訊くのを忘れていました」

「なぁに?」

「この「命令」はいつまで続くんですか」


課長は腕組みしてうーんとうなってみせた。


「それは状況によるな。一年、二年…いやキミが退職するまでかもしれないし、もしかたら一ヶ月したら「もういいよ」ってなるかもしれないし…俺の気持ち次第かな」

「真面目に訊いてるんです。こんなふざけたこと、長く続けるなんて馬鹿げてます」



「ふぅん。じゃあ俺も訊くけど、キミが俺のこの秘密を黙っといてくれる保証はどこにあるの?」

「…は?どうして課長の秘密と命令が関係あるんですか?」

「この関係をただの利害関係の一致だと思ったら、ちがうよ。キミを束縛するのは、俺の秘密を守るために監視するためでもあるんだ。なにしろキミは、知り過ぎてしまったからね」

「だって、それは自分から…!」

「ちがう」


はっきりとした口調で遮られて、わたしは言葉に詰まった。
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