キミに恋の残業を命ずる
「簡単にばらしたりなんかしてほんとに大丈夫なのか、裕彰」
「ああ、亜海は口が堅いから。なぁ、亜海」
「え、あ…はい」
社を代表する敏腕コンビに見下ろされ、わたしは思わず背筋を正した。
「…このことは絶対に秘密にします、部長」
じゃないとクビは間違いない。
服部部長の影響力はすさまじい。
「そうか。まぁ、こいつが自分で招いたことだし、もう俺としてはどうとでもなれだが」
「うわ、ひど」
眉をしかめる課長の言葉なんか聞こえてないように、部長は続けた。
「ま、こいつもちょっとは大人になる気になったんだろう。こんなヤツだがよろしく頼む」
「は、はい…!」
た、頼まれてしまった。
ということは、こうして秘密を知った部外者はわたしだけってことなのかなぁ。
「じゃあ裕彰…じゃない、遊佐課長。今日から足をひっぱらないようよろしくたのむぞ」
「そっちこそ、あんまし固い頭で俺を困らせないことを祈るよ、服部部長」
売り言葉に買い言葉を交わしながらの握手は力強かった。