キミに恋の残業を命ずる
「バスの時間すぎただろ?気を付けてね」
そうして遅くなった夜はタクシーチケットをくれる。
そして、「家に着いたら必ずメールするように」と念を押す。
「いつもこんな遅くまで残業させて悪いね」
「いえ…」
なにを今さら。
「命令」とまで言って強要したのはあなたですよ。
「あまり遅くなったら、泊まっていくといいよ」
「え…」
「もちろん、これは命令じゃないからね」
当たり前です…。
「でもさ」
ふいに手が伸びてきて、わたしの頭をそっと撫でた。
「早く俺のこと好きになればいいのにね。そうしたら朝までずっと一緒にいられるのにね」
「……」
「好きになったら、いつでも言っていいからね」
な、なにを言ってるのよ、もう…!
「…し、失礼しますっ」
踵をかえすと、クスクスと笑う課長に振り向くことなく会社を飛び出た。