キミに恋の残業を命ずる
話し合いはさっきからずっとこんな調子だった。
みんな上からの急な横暴命令にキリキリしていて、まともな案を考え出す気力もないみたいだった。
でも、そろそろ企画をまとめておかないと…。開催日は着実に迫ってきている。
みんなで料理を囲めて、経費を安く済ませられるものか…。うーん…。
ふと、ひらめいた。
「あの…」
わたしは重苦しい雰囲気の中手を上げた。
「な、鍋とか…いかがでしょう?」
『鍋ぇ?』
「立食形式にしてテーブルごとにちがう味の鍋を用意するんです。材料は一人あたりの金額を決めて、その範囲内で野菜とかを買ってきてもらって、肉や魚貝はこっちの予算で出すようにして…。それなら普段の参加費だけでまかなえると思うし、こちらも手間も減らせると思うんです」
「なるほどね」
「いいかも」
珍しく意見を受け入れてもらえてうれしかった。
わたしはすこし高揚して話を続けた。
「ひとつの鍋に係りが一人つくようにすれば、味の調整や具材の取り分けも公平にできると思うし。そうやっていろんな鍋を回りながら親睦も深められますし、…なにより、普段とちがって楽しいと思うんです」
「うん、いいよね?」
「うん、いいとおもう!」
けど田中さんだけは自分の企画よりもわたしのが反応良かったのが面白くないみたいで、ふん、と鼻笑った。