キミに恋の残業を命ずる
「って簡単に言うけど、全社員が食べる分の材料なんて、どうそろえるのよ。直前にスーパーを駆け回るわけ?」


たしかに…とみんな見合わせる。

わたしもそう言われては口をつぐむしかなかった。

前日に用意して保管って手もあるけど、冷蔵庫がない。
冬とは言え、生ものだから注意がいる。
かといって田中さんの言うように直前にスーパーを巡るわけにもいかないし…。


みんなわたしと同じ想像をしていたらしい。
次第に諦めの表情が広がって、冷やかな視線がわたしに向けられる。「できもしないことを軽々しく口走って」って責めるような顔。
誰も助け船なんて出してくれそうにない…。


「…すみません、やっぱり無理ですよね…。この企画はなかったこ」



「俺、いいと思うけどな」



急に男の人の声が聞こえて一斉に振り返った。

とたんに、みんな目がハートになった。



「遊佐課長ぉ!」



な、また急にどうして…!


「ごめんね、通りがかったら聞こえてしまって。楽しそうですごくいい企画だと思うなー」


と、あの甘い顔と言葉で言うから、先輩たちはみんなとろんとなっている。
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