キミに恋の残業を命ずる
パンツスーツがよく似合うスタイルとみなぎる自身に溢れた女性は、社内でも数えるほどしかいない。


営業部の日野亜依子(ひのあいこ)さんだ。


社内のスターの登場に、わたしは思わず姿勢を正した。
亜依子さんを前にすると思わず身だしなみを整えたくなるのは、わたしのような一般職社員なら誰でもそうだ。


亜依子さんは実は社長の実娘さんなんだけれど、それを笠に着ない努力家で、敏腕ひしめく営業部の中でも高成績を維持し続けているキャリアウーマンだ。

それでいて気さくで人当たりが良く、上からも下からも信頼を集めているので、25歳という若さにもかかわらず次期課長の最有力候補としてウワサされていた。


「ごめんね、外で田中の声が聞こえたものだから、つい盗み聞きしちゃったの。あなた、今回の親睦会準備、独りでなんて大丈夫?」

「ええ……まぁたぶん…」

「まったく、あの人の横暴っぷりには目が余るわね。営業事務への異動願を何年も無視されてるから、すっかりやさぐれちゃったのよね。原因は自分のその性格だってのに、どうして気づかないのかしらね」
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