キミに恋の残業を命ずる
「すみません。今夜は行けそうにありません」
『そんな返事はいらないよ。早く来て?』
「…わたし、ほんとに今日はそれどころじゃ」
『早く来い。命令』
もう…!腹が立つ。
だれのせいでこうなったと…!
こうなれば、課長にも業者探してもらうんだからね。
※
ぷんすかしながら部屋に行くと、ご機嫌とりのつもりか課長はカモミールティーを淹れてくれた。
「ところで、今日話し合っていた案はどうなったの?準備が大変って言ってたけど」
「もちろん、準備することになりました、独りで」
「独りで?」
これには課長もおどろいたみたい。一瞬眉間にしわが寄った。
「大丈夫なの?全社員分のを用意するんだろ?」
「はい、大丈夫です。いつもの残業より、ずっと簡単ですから」
「?」
「『材料×全社員分×種類』。使うのは単純な掛け算だけ。難しい計算式なんて不要ですから」
「ははは。そうだね。その通りだ」
愉快そうに口端を歪めると、課長はいつものようにレモンティーを飲んだ。