キミに恋の残業を命ずる
「しかも最初はアメリカに住んでいたから日本語もしゃれなくて、施設に入りたての頃は職員とも満足に話せなかったんだ。だから気づいた時には友達もいなくて、作る術もわからなくなってて、独りでいるのが一番楽になってた。
ま、ぐいぐいくるのは受け入れたけどね。おかげで女の子には困らなかったけど」


なるほど…人嫌いってそういう意味なのか…って、最後はどうでもいい情報だけど。


「そんなこんなで大学に行って、ひょんなことで知り合ったのが友樹だった。面白みのないこれまでの人生だったけど、大学生活だけはけっこう楽しかったな」

「…そうだったんですか」

「あいつって、あの通り律義で真面目なやつだろ?だからまぁ、あいつがいてくれたからこそ、こんな俺でもこうしてやってこれたのかもな」


なんて笑う課長の瞳は、これまで見せてくれたことのない澄み切った色合いを見せていて、本当に心の底から服部部長を慕っているんだな、って思わせてくれた。

親友だけどお兄ちゃんのような…きっと、家族と言える存在から遠く離れていた課長が手に入れた、かけがえのない存在なんだろう。

胸がきゅっとなる。

けして幸福とは言えない生い立ちを持った課長にそんな人がいてくれたのが、自分のことのようにうれしかった。
< 148 / 274 >

この作品をシェア

pagetop