キミに恋の残業を命ずる
通りすがりにデータを直してくれるような王子様な人だけど、初対面のしかも号泣面の女にキスまでする道理はない。

キスは、絶対に夢!

妄想が生んだ代物だ!



…我ながら恥ずかしいけど…。





「って…こんなこと考えてる場合じゃないよね…」


ちょっと思い出すつもりだったのに、ついぼんやりしてしまった。
今日一日、ずっとこんな感じだった。だからミスちゃうんだよ…うう。


「いけないいけない。こんな調子じゃ、今日こそ最終逃しちゃうよ…!しっかりしなきゃ!」


と、パンと頬を叩いた拍子だった。



きゅうぅぅ



お腹からなんとも頼りない声が聞こえた。





…取りあえず…なにか甘い物でも食べて、息抜きしようかな。


と袖机を開けてみたけれど、常備しているお菓子は尽きていた。


「はぁ…。温かいココアでも買ってこようかな…」


ため息まじりに立ち上がり、わたしはオフィスの外にある自販機コーナーに向かった。





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