キミに恋の残業を命ずる
鍋の汁はエントランスホール近くの給湯室で作ることにしていた。

味は全部で六種類。

出来合いを使えば楽だけど、やっぱりここまできたなら手作りにこだわりたい。
味噌、塩、醤油の定番も、チゲ、トマトの変わり種もぜんぶ手作りにして、最後に作る豆乳は特に力を入れた。


「豆乳鍋って俺はあんまし食べたことがないんだけど、キミの家では定番だったの?」

「はい。おばあちゃんがよく作ってくれました。我が家は鍋と言えば豆乳鍋でした。うちのおばあちゃんは大豆が大好きで、豆腐だって自分で作ってたくらいなんですよ」


と、味見する。

うん、久しぶりで心配だったけど、ちゃんとおばあちゃんの味が出てる。

課長にもためしてもらう。


「どうですか…?」

「ん、美味い!」

「よかったぁ。みんな喜んでくれるといいな」

「大丈夫。これならきっと一番人気だよ」


と言う課長の表情は苦々しい。


「でもちょっと惜しいな。キミの作った料理が他のヤツに食べられるなんて」


…なにをおっしゃいますか。
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