キミに恋の残業を命ずる
胸が高鳴った。
豆乳がぐつぐつ沸き立つのにかこつけて、鍋をかき回すのに専念しようとした―――
わ…。
けど、急に動けなくなってしまった。
課長がわたしを後ろから抱き締めてきて―――ううん…!抱き締めるように背後に立って、お玉を持つ手と小皿を持つ手を取ったから。
「キミの味を知られる前に、もう一回、味見させてほしいな…」
そして、操り人形のように小皿に汁をそそいで、もう一度すする。
こくり。
耳のそばで嚥下する音が聞こえて、鳥肌が立つくらい低くて掠れた声が…
「美味しいね」
わたしの耳を刺激した。
もう、頭が真っ白になって…。
こめかみがドキドキ鼓動する音しか聞こえなくて…。
気づいたら課長は離れていた。
「そろそろ手伝いの子たちが来る時間でしょ?俺戻るね」
「あ、はい…!ありがとうございました」
エレベーターまでついて行こうとしたけど、課長は微笑んで首を振った。
「いいよ。準備はまだ残ってるでしょ?」
「あの、本当に、本当にありがとうございました…っ」
「大したことしてないよ。運んで切って味見しただけ」
その時、エントランスホールの方から、女の人の声が聞こえてきた。
「じゃあ楽しみにしてるからね」
課長は階段を昇って帰っていった。
「あ、お肉の業者来たよ」
「亜海ちゃんどこにいるんだろ?連絡だれかしといてー!」
にわかににぎやかになったエントランスホール。
忙しい一日が始まろうとしていた。
豆乳がぐつぐつ沸き立つのにかこつけて、鍋をかき回すのに専念しようとした―――
わ…。
けど、急に動けなくなってしまった。
課長がわたしを後ろから抱き締めてきて―――ううん…!抱き締めるように背後に立って、お玉を持つ手と小皿を持つ手を取ったから。
「キミの味を知られる前に、もう一回、味見させてほしいな…」
そして、操り人形のように小皿に汁をそそいで、もう一度すする。
こくり。
耳のそばで嚥下する音が聞こえて、鳥肌が立つくらい低くて掠れた声が…
「美味しいね」
わたしの耳を刺激した。
もう、頭が真っ白になって…。
こめかみがドキドキ鼓動する音しか聞こえなくて…。
気づいたら課長は離れていた。
「そろそろ手伝いの子たちが来る時間でしょ?俺戻るね」
「あ、はい…!ありがとうございました」
エレベーターまでついて行こうとしたけど、課長は微笑んで首を振った。
「いいよ。準備はまだ残ってるでしょ?」
「あの、本当に、本当にありがとうございました…っ」
「大したことしてないよ。運んで切って味見しただけ」
その時、エントランスホールの方から、女の人の声が聞こえてきた。
「じゃあ楽しみにしてるからね」
課長は階段を昇って帰っていった。
「あ、お肉の業者来たよ」
「亜海ちゃんどこにいるんだろ?連絡だれかしといてー!」
にわかににぎやかになったエントランスホール。
忙しい一日が始まろうとしていた。