キミに恋の残業を命ずる
けど不思議なことに、呆れるばかりでわたしは怒りや悔しさは感じなかった。


もしこれをやりきれれば、わたしは成長できるかもしれない―――。


そんな期待が現実になったような達成感にひたれていたからだ。

この充実感が「わたしもやればできるじゃない」って気持ちにさせてくれて、理不尽なことをすっぽりと覆い隠す広い心を作り出してくれていた。


けど。


「キミってバカがつくくらい謙虚だね」


課長は大いに気に入らない様子だった。


鍋の汁が足りなくなって給湯室で作っていたら、課長がやってきた。


「いえ、いいんです。わたしはこうして成功させられただけでも満足なんですから」

「そうなの?本当に?」

「はい」

「ふぅん…。でも、俺はやっぱり腑に落ちないな。せめてカインドフードの社長さんに頭を下げた分でも取り戻さないと、気がすまない」


そう言い残すと、課長は田中さんと人事部長が話している場へと向かった。





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